晴れ

「え?赤井秀一の寿命?」

それは家でまったりとくつろいでいた時に珍しく早くに帰宅した降谷から言われた言葉だった。いきなりのことで戸惑ってしまった。
正直三雲は降谷と赤井の中が正しく水と油、犬猿の仲だと思っていた。何をするにも降谷が噛みつき、赤井はそれを天然を発揮しながらおちょくる(天然だから本人に悪気はない)。それの繰り返しだった。そこを止めるのはスコッチであった天野の役目。天野がいなくなってからは降谷はベルモットと三雲(当時はブルームーンというコードネームだった)と一緒に行動し、赤井は彼女であった宮野明美と行動していた。だが二人は一度出会えばにらみ合う仲だったはずだ。
それが今になって何故?
あれか、いなくなってようやく大事だと…

「三雲、勘違いしないでくださいよ。これは公安としての仕事です。あいつがどうなろうと俺には関係ない」
「あ、そう…」

どうやら違ったようだ。
それならなぜ?公安としてと言っていたが…まさかね…。

「まさかと思うけど、警察のお偉いさんは、赤井秀一という死んだと思われていた大物を使って、貴方というバーボンを組織の中心部に入り込ませるの?」
「……」
「無言は肯定として受け取るわ」
「…俺もやりすぎだと思っている…あいつはいけ好かないFBIだが同じ組織を潰そうとする一人だ…俺としてはあいつを使ってFBIを使ってやろうとしか…」

ブツブツ言いだした降谷に苦笑しながら三雲は声をかける。降谷に限らず公安全員はFBIを嫌っている傾向が強い。まぁ理由としては現場を好き勝手に捜査していくからだろう。国によって捜査のやり方は違うから…。

「赤井秀一と会ったのはライの時だったけど、数年で死ぬようなカウントではなかったはずよ」
「…それだけ分かればいい…証拠はすべてここにそろえた」

そう言って降谷は鞄をチラッと見る。

「…成功してほしいような、悪いような…なんとも言えないわね」
「だが、成功すれば俺は組織で信頼を一気に得られるのは間違いない…必ず捕まえてやる」

降谷がそう言ってグッと拳を握った時だった。
胸元に下げていたリングにボゥっと炎が灯る。

「「!!」」

キラキラと黄色に輝く炎は正しく晴れの炎。
三雲は降谷に晴れの匣を渡す。降谷はその間にリングを指にはめ、渡された箱に炎を注入すれば黄色い何かが箱から飛び出してきた。

「あら…」
「これは…」

飛び出てきたソレはソファーの上に足をつきこちらをジッと見ていた。
黄色をベースにした体毛には黒の斑点が無数に散らばっており、すらっとした長い足に、大きく出ている胸囲に反した細いくびれ、長い尾は走る際舵の役目を果たす。
耳元と足からはキラキラした晴れの炎が出ている。

「チーター?」
「いいえ、ただのチーターではないわ…これはキングチーターね」

トンと音を立ててチーターは降谷の足元に座る。

「貴方にぴったりなパートナーじゃない」
「え?」
「だって、足の速い犯人をこの子なら捕まえれるわ」

その言葉に降谷は笑みを浮かべ、チーターの頭を恐る恐る撫でる。
チーターはその手に己の頭を押し付け、グルグルとのどを鳴らす。
それを見た三雲は己のリングに炎を灯し、二つの匣に注入する。
バサッと大きな羽音を出し彼女の肩に止まったライファーンとは別にもう一匹いることに降谷は気づく。

「…ライファーンとはまた別の奴か?」
「そう、最近できた私のパートナー…レートよ」

彼女の傍には寄り添うように一匹の狼がいた。
モデルはホッキョクオオカミで、北に住むとあってその身体はけがれ無き白だった。

「でもこの子は形態変化できないの」

レートは頭を撫でられ無邪気に尻尾を振る。
オオカミというより、犬の性質に近いホッキョクオオカミは現地でも人に身体を撫でられたりしているフレンドリーな性格な個体が多い。

「レート…由来は?」
「ギリシャ神話でアポロンとアルテミスを生んだ雌狼からよ、本当はレートーなんだけど呼びにくいから…ちなみにライファーンはライファーから取ったの」
「ライファー…鳥見のか」

三雲と降谷は挨拶を交わしている三匹を見る。

「…マフデト」
「…エジプト神話ね…確かチーターの頭の女神で」
「法の下での裁きの執行」

成程、あの子に合っているのかもしれない。
降谷は警察官だ。そんな彼が追うのは法を犯した者たち。それを捕まえるのはこのチーターということだ。

[ミャゥ]
[ピィイ]
[オンッ]

それぞれが鳴く声に視線をやればこちらを不思議そうに見る蒼い瞳と金色と赤の瞳。
それを見たマンダリンガーネットとアクアマリンは微笑をこぼした。