緋色

あの日から降谷は一層公安の方の仕事に力を入れるようになった。
証拠事態はすでにそろっている為、今日行動に移すのみのようだ。だが、そううまくいくだろうか…三雲はそう思いながら部屋でのんびり過ごしているレートを見る。
それに降谷は公安と言えど、彼を組織につき出して考えられるデメリットも頭の中に入れているはずだ。…ま、彼のことだ。赤井秀一をなんだかんだ嫌っていても実力は認めているはずだから、殺したりはしないだろう。
近くに寄ってきたレートの頭を撫でる。

レートはいわば失敗作だ。本当はツンドラオオカミの匣兵器を作る予定が、どこを間違えたのか、人懐っこいホッキョクオオカミになってしまったのだ。
彼女の耳元から出ているオレンジ色の炎をジッと見て、パソコンを開く。

「アサリ」
【はい、マスター】
「小規模のマフィアのデータを」
【畏まりました】

三雲はルパンに頼まれていたヴェスパニア鉱石を横流ししているマフィアの捜索を開始していた。ボンゴレ内部、同盟ファミリー、傘下のマフィアグループにはそれらしきことをしている者はいなかった。
そうなると他のファミリーとなる。アサリがかき集めていたデータを一字一句の見落とさずにただひたすらパソコンを見る。
そんな時、レートが[ワフッ]と声を発する。視線をそこに向ければ、TVを見てこちらを見るレートの姿が。
TVの方に視線を向ければ、近日来日するエミリオ・バレッティについてニュースが流れていた。
そのプロモーターである男…ルチアーノ・カルネヴァーレ。どこかで見たことある…そう思いながらアサリに彼を探すように指示すれば、数分後にはそのデータが揃った。
イタリアで小さなマフィアグループだが、最近になって急成長をしているようだ。さらに情報を集めれば、汚いことを裏でしているようだ。
ここまでデータが揃えばいい、そう思いルパンに電話を掛ける。

「Chao」
『はーい、三雲ちゃ〜ん何か分かった?』
「えぇ、イタリアマフィアグループボス…ルチアーノ・カルネヴァーレに目をつけていいかもしれません」
『…ルチアーノ?あれか、最近有名になってきた歌手のプロモーターの』
「えぇ、表では…。本来はボンゴレの傘下にも同盟にも入っていない弱小のマフィアグループのボス…ただここ最近成長してきているようです…そちらに情報はお渡しします…」
『ありがとうね…で?ボンゴレはこれをどうするんだ?』
「…世界大戦の引き金を作っている者たちなど、この世にいなくてもよろしいと思わなくって?
まぁ我が弟のボスであるツナは絶対反対するだろうけど…」

クスクス笑いながらそういう三雲は、普段の温厚な性格とはかけ離れた姿だ。
なんだかんだと言いながら彼女もマフィアの血を持つもの。この世を護るためならば少々の犠牲は必要だ、ということだろう。
ルパンはそれにニヤリと笑みを浮かべる。
犠牲も無く穏便に解決策を考える弟と、少しの犠牲を出してでも確実に成功させる姉…そんな二人がいるボンゴレ。
彼女はボンゴレ内ではボスの次に権力のあるNo.2といってもいい位置にいる。否、本来は彼女がボンゴレを継ぐはずだった。ボンゴレリングも彼女を認めていたようだが…実際継いだのは弟である綱吉。
そんな彼女が今回動かすのは恐らく、独立暗殺部隊ヴァリアー。
失敗すれば己たちも殺されるかもしれない危険な任務だ。
ルパンはゾクゾクとしたなんとも言えない感情が駆けあがってくるのを感じた。
_____________

一方降谷の方はと言えば、降谷が集めた情報を工藤邸にて披露していた。

「…という訳です、どうです?」

スーツを着、ドヤ顔の降谷は笑みを浮かべ、目の前に座る男を見た。
男の名は"沖矢昴"。大学院生で、最近火事によって住んでいた家が全焼。そのため工藤邸にどういったつながりでか分からないが、こうして居候という形で住んでいるのだ。
降谷はベリツリー急行の時から赤井の死を疑い気になった為、証拠を集め、彼が赤井であるという証拠を得たのだ。
たまたま部下にその話をしている時、何故か上司が聞いており、それを使ってバーボンをさらに組織の中心に行かせようとしたのだ。
だが赤井がいなくなっては、組織壊滅のための鍵が減ることを考えた降谷は仲間を…否一人だけ連れこうして工藤邸に赴いたのだ。
降谷の言葉に沖矢は笑みを浮かべる。そしておもむろにタートルネックで隠れている首に手をやればどこからか、ピッと機械を切るような音がする。

「正解だ、安室くん…否、警察庁警備局警備企画科、通称ゼロの降谷零くん」
「ふっ、やはりそこまで調べていたか…」

沖矢…赤井は変装用のマスクも外す。そうすれば、降谷の知っている赤井となる。赤井はその翡翠色の瞳を降谷の後ろに立っている男に向ける。

「元気そうだな…」
「おう、久しぶりだな、元警視庁公安部の高野祐だ。今は天野一として生きてますので宜しく頼むわ」

そう言って笑うのは、三雲の専属部下の天野。彼も天野として生きる前は警視庁公安部から黒の組織へ潜入を任されていた潜入捜査官だったのだ。

「さて、沖矢がFBIの赤井秀一だと分かったわけだが…公安は俺をどうするつもりだ?」
「…貴方を組織に引き渡し、バーボンが更に組織の中心に入るための餌としますよ」
「……」
「……と上から命令されていたのですがね」
「ホゥ…ということはその命に背くのか?」

降谷はふぅと溜息をつき、ソファにもたれかかる。

「えぇ、もし命令に従えば、奴らを潰すための駒が減ってしまうわけですよ」
「それは俺達にとっても都合が悪いからな…」
「今回は貴方が赤井だったどうかを確認したかっただけですよ」
「…そうか」
「降谷頑張って言い訳考えとけよ」
「大丈夫だ、すでに手は打っている」

そう言って降谷は笑いながら立ち上がる。

「あぁそうだ、赤井お前の実力は認めているが、俺達の日本で好き勝手するFBIは嫌いだからな、早く出て行ってくれ」
「…組織が壊滅、その処理が済み次第すぐに出ていくさ」
「また会おうぜ、赤井」
「あぁ、またな天野くん」

二人はそう言って出ていく。
二人を見送った後階段を降りる小さな足音に目を向ければそこには、笑みを浮かべている小さな探偵がいた。

「赤井さんの言葉を疑っていた訳じゃなかったけど、良かったね」
「だから言っただろ?彼らは決して俺を捕まえることはないと」
「そうだね、天野って人は知らなかったけど、仲間みたいだし…でも三雲さんは一体何者?」
「…そうだな、彼女に関してはボウヤが心配することじゃない」
「…なんで言い切れるの」
「…彼女も奴らを狙う狼の一人だ」

赤井はあの日スコッチの死を偽装した男を従える女のことを思いだす。
スコッチ…否天野が降谷と共にここに現れたのは恐らく、彼らは今でも交流関係のあるということだ。死んだ人間が生きた人間、ましてや組織に潜入中の人間に接触するのはまずいだろう。
そしてその上司である彼女もまた、表では死んだが、裏では虎視眈々と奴らの首を狙っているのだろう。


「っくしゅ!!」
[キューン?]
「…誰か噂でもしてるのかしら…」