スカイダイビング

三雲達が東都に着いた頃は日も落ちてきた時間帯だった。
ベルツリータワーの近くのコンビニに休憩がてら車を止め、天野は次元に連絡をしていた。

「あ、次元さん?今どこです?」
『あー今はベルツリータワーだ』

天野はその返事を聞いてベルツリータワーを見る。ここから近いし、一度合流するのもいいかもしれない。そう判断した天野はそちらに行くことを伝え、車に先に乗っていた三雲にその旨を伝える。三雲もその案に否定は無いようでレモンティーを飲みながら頷く。
ロードスターを発進させ、ベルツリータワーの駐車場に着いた時だった。ピリピリと電話が鳴り、天野が電話を取ればそれは先程連絡を取り合っていた次元だった。

「もしもし、次元さん着きm『上をみろっ!!』上ぇ?」

天野の言葉に三雲もベルツリータワーを見上げれば、小さいながらも人がぶら下がっているではないか。それを確認したと同時に響く発砲音。
三雲は瞬時にリングに大きく炎を灯し、腰についている紫色の匣に先に注入する。紫色の匣から膨大な霧が出てくれば、あたりは先の見えない濃霧によっておおわれる。それを確認した後、橙色の匣に炎を注入する。そうすれば白銀に輝く巨大な鳥は、彼女を背に乗せ飛びあがる。霧によって視界が遮られたが、己の主人が何をするかぐらいは分かっている為、天野も己のリングに紅い炎を灯し、匣に炎を注入する。その箱からはジャーマン・シェパードが飛び出てくる。

「ライラプス、案内頼む」
[オンッ]

ライラプスの頭を撫でながらそう言えば、彼はダッとベルツリータワーの入口があるであろう場所に駆けだす。
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一方ベルツリータワー展望台では次元が開けた穴にコナンが飛び出し、阿笠博士の発明である伸縮自在のサスペンダでスカイダイビングをしていた。
サスペンダーの片方を巨大な輪っかにし、ぶら下がっていた二人…彼の幼馴染の毛利蘭とかの歌う貴公子、エミリオ・バレッティを救出した…かと思われたが、いきなり吹いた風に煽られ大人二人の重力で揺れは激しくなり、ほぼ力を使い果たした蘭の重心がずれ、頭から落下してしまった。

「っ蘭!!!」
「蘭っ!!」

下にいた園子とそれを見ていたコナン、双方から叫に近い声が出る。蘭はほとんど目の開いていない視界で、己が落ちたことを理解する。コナンは宙に浮いた状態で、何もできない己を恨むように幼馴染の名を呼ぶ。

ーあぁ…本当にもうだめ…新一

蘭は迫りくる地面を視界に入れ、己に来るだろう衝撃を覚悟して目を強くつむった。
その時だった。
天を裂くような甲高い声が聞こえたと思ったら、蘭の身体は何か暖かいものに包まれたのだ。

「?え…」
「大丈夫?」

声が聞こえた為そこを見れば、己の身体を支えるかのようにして、風に煽られないように黒のフードを目元までかくした人物がこちらを見ていた。
蘭は訳が分からないとばかりに目を見開き、己の下にあるものを見て声を上げる。
己が乗っているのは白銀に輝く羽毛を持った鳥のようなものだった。

「ライファーン、彼女を下ろしたいわ」
[ピィィイ]

先程己が必死にエミリオを掴んでいた場所より上に鳥は大きく羽を羽ばたかせて降りる。
それをコナンは見ると、すぐさまに非常階段がある場所に向かう。次元も行こうとするが、非常階段から登ってきた天野を見て、口元をひきつかせる。彼の足元にはパタリと尾を振り、一仕事し終えたとばかりに天野を見上げるジャーマン・シェパードがいた。

ライファーンが着地するとフードを被った三雲が先におり、力の抜けた蘭をその背から降ろす。

「もう大丈夫よ、毛利蘭さん」
「あ、あの…」
「何も聞かないで…どうせ答えられないのだから…それにこの事はSegreto…内緒にしてて」

口元に指を当て小さく呟いた三雲は小さく鳴いたライファーンに素早くのる。それを確認したライファーンは大きく翼をはためかせ、甲高い音と共に漆黒に染まる夜空に消えた。
それをぽかんと見ていた蘭のもとに息を切らしたコナンがやってくる。

「蘭姉ちゃん!!」
「…え、あコナン君」
「大丈夫!?怪我は!?」
「あ、うん…大丈夫…ただ少し力が入らないだけ」

その回答にコナン…否新一はホッと息を吐く。
そして蘭の見つめる空を見て、蘭に問う。

「ねぇ、さっきの鳥みたいなのに人が乗っていたと思うんだけど…どんな人だった?」
「……」

蘭はコナンの問いにすぐに答えられなかった。なぜならば、あの声は己が知っている人物の声だったからだ。それにフードからチラッと見えたマンダリンガーネット色の瞳、そして英語とは少し違う発音をするイタリア語…それらを持つ人物は蘭の知り合いに一人しかいなかった。
だが、命の恩人である彼女の言葉に反することなく、彼女はコナンに一言「知らない人だったよ」と言葉を返したのだった。