スクアーロがうまくやってくれているようだ。
三雲は降りだした(雨の属性の炎が含まれている)雨を透明傘から見ながら小さく笑みを浮かべる。

ーパシャパシャ…

雨音に交じって聞こえた足音にそちらを見れば、スーツを着、荒い息をしている降谷の姿があった。彼は雨に打たれびしょぬれだ。

「やっぱり来たのね」
「あぁ…日本で悪さをする奴らは捕えないといけないからな…」

降谷のその言葉に彼女は小さく笑みを浮かべ、視線を空港に戻す。
空港では突如降りだした雨に困惑する人たちがいるはずもなく、それよりも突如現れた第三者に対して困惑していた。

「…ボンゴレはルチアーノを捕えてどうするつもりだ?」
「…復讐者に引き渡す予定よ」
「ヴィンデェチェ?」
「マフィア界の法の番人で、法で裁けないモノ達を裁くモノ達…いわば裏の世界の裁判官ね」

一瞬寂しげな瞳をした彼女に声をかけようとしたが、いきなりやってきた脱力感に降谷は膝を腕で支える。

「!?」
「この雨は、鎮静の雨」
「まさかっ…」
「雨の属性は鎮静…浴びればたちまち心身を鈍くする」

降谷は懸命に目を開けようとするが、意識が既に遠くなっていく。身体を支えている足ですら、ガタガタと震え、ガクンと力が抜ける。地面に着く前にどこからともなく現れた天野が降谷を支える。支えられた状態でも懸命に瞼を上げ、こちらを見てくる降谷の濡れた髪を彼女はそっと払う。

「ごめんなさいね…まだあなたをこっちの世界に連れこむわけにはいかない」
「…ま、て」

その言葉を最後に彼の意識は闇に沈んだ。

−−−−−−−−

時を少し登って空港では…。

「どういうことよクールキッド!!」
「ジョディくん…彼らの背後を見てくれ…」

いきなり銃を下ろすように言ったコナンに対してジョディは駆け寄るが、周辺を警戒し、見渡していたジェームスは気づいていたようだ。
赤井からの連絡を聞いて捜査官たちの後ろを見ればどういう仕組みなのか、空中に浮いているナイフがあった。
ありえないが、もし赤井からの指示に従わなければ、彼らの命は危ないだろう。そう判断し、すぐに銃を下ろすように伝えてもらう。
銃を下ろした瞬間を狙ってからか雨が降ってくる。しかも小雨ではない…本降りだ。
おかしい今日は雨が降るなど予報になかったはずだ…。コナンは眉間に皺を寄せながら突如降ってきた雨に濡れたメガネを拭く。

ーパシャン…

「は〜い、皆さんこんにちは〜」

そう言って雨音と共に現れたのはビニール傘をさした、黒いコートを着た金髪の男だった。彼の肩にはミンクのような生き物がおり、彼と同じようにシシシと歯を見せていた。尻尾はコートのフードの方に隠れているようだ。

「おぉー来てくれたね〜!!」
「シシシ…つか何子供なんかに遊ばれてんの?王子見ててありえないって思ったんだけど」

ルパンが嬉しそうに顔に笑みを浮かべ言葉をかければ、彼はルパンが今一番言われたくない言葉を容赦なく投げる。
案の定ルパンは不満そうに「だって、そいつ子供じゃないし」とブツブツ文句を言っている。勿論その言葉は殆ど聞き取れないモノではあったが。そんなルパンもいつの間にか傘を差している。

「さぁーて…」

ベルフェゴールは倉庫の奥で震えているルチアーノを見つけると口角を上げる。
カツン…カツン…と音を立ててルチアーノの目の前までやってくれば、ルチアーノは恐怖のあまり震えが止まらないようだ。

「あ、あぁ…ぁあ、なんで…っこんな所にっ」
「そら日本とイタリアでことを犯せば動くに決まっているだろうよ」

コナンは日本とイタリアという言葉と、どうして彼に対してあれ程ルチアーノが怯えるのが謎だった。FBIも突如現れた男に警戒を緩めない。…その間に脱出準備を進めているルパンたちに誰も気づかない。

「ルチアーノ、ヴェスパニア鉱石を他国へ勝手に輸出し、己の懐を温めた…間違いないよな?」
「ち、違うっしていないっ」
「おいおい、証拠はそろっているし、何より俺達の姫が間違うはずないだろ?」

その言葉と共に彼の肩にいたミンクが「シャァーーーーッ」と鋭い威嚇をする。それにひどく怯えるルチアーノ。

「ひぃぃい!!!」
「さ、さっさと立ってくれない?」

ベルフェゴールがそう言うが、ルチアーノはガタガタ震えるだけで言葉を発しないし、動く気配もない。
ベルフェゴールっは舌打ちをすると思いだしたかのように懐から一通の封筒を取り出し、それを訳が分からないといわんばかりの様子で事の成り行きを傍観していたアラン・スミシーに渡す。

「これ読んで理解したなら今すぐここから去ってくれない?俺達の目的はこいつだけだからさ」

アランは訝しげに封筒から一枚の紙を取り出す。開いた瞬間オレンジ色の炎が灯り、それを見たルチアーノは更に怯える。アランは炎に驚きながらも紙に書かれている内容を呼んでいく。そして目線が下に行くほど彼の目は驚愕に開かれる。

「…まさか」
「シシシ、それが俺達のボスが出した答えだ…この件から手を引いてくれるよな?」

ベルフェゴールがそう言えば、彼は頷く。
それを確認してからベルフェゴールはどこからともなくナイフを取り出し、ルチアーノの首に当てる。