雨降って地固まる

倉庫内はベルフェゴールから発せられた殺気に満ちた。
遠く離れたコナンたちですら足が震えているのだ、ルチアーノはその殺気を真正面から受けている。震えも最高点に到達している。
コナンはチラッとジェームズを見れば、彼は額に冷や汗を流しながら険しそうにベルフェゴールを見ていた。

「あの人、知っているの?」
「……」

ジェームズは目を見開いたままゆっくりと頭を振る。それは闇雲に知らなくていいと言っているのだ。裏返せば、彼はその存在を知っているということなのだが。
ベルフェゴールの余りにも気迫により、ルチアーノは言葉を発しない物の頭を縦に振り、肯定の意を示した。

「ッチ、自分の口で言えよ…まぁいいや。どうせこれは全て見られているからな」
「う"おぉおおい、終わったかぁぁああ!?」
「「「!!?」」」

突如聞こえた声にその場にいた全員がそちらを見れば、銀色の髪にベルフェゴールと同じ黒のフードを被った男が現れた。コナンは一瞬その外見に例の組織の一員を想像したが、すぐにその思考もその後に入ってきたモノに奪われた。全員が驚きの眼で見たのは彼の後ろを泳ぐように浮いている一匹の巨大な鮫だ。
鮫は身体を水色の水のようなもので覆われている。
そして金髪の男、ベルフェゴールの肩にいたミンクも身体を全てフードから出す。その尾は赤い炎に包まれていた。
スクアーロが現れたことにより、ルチアーノは恐怖が完全にキャパオーバーになってしまったのだろう、失禁してしまった。

「ッチ、まぁ肯定したんならいい」
「…ちぇ、仕事これで終わりかよ」

ベルフェゴールがそう言った瞬間どこからともなく霧が現れる。
スクアーロは忌々し気に舌打ちをし、「来たな」と小さく呟く。それと同時にいきなりルチアーノの首に鎖が巻き付かれる。鎖の先を見れば包帯を巻いた者が数人どこからともなく現れていた。
コナンが駆け寄ろうとするとガクンと身体の力が抜ける。

「なっ!?…っ!!」
「落ち着け、お前たちはあの雨鮫によって降った雨に浴びたんだ…眠りにつくだけだ」

ルパンが倒れそうになったコナンを支える。コナンが落ちてきそうな瞼を必死に開けて周りを見れば、先程倉庫の外におり、雨に打たれた者たちは全員地面に倒れていた。雨鮫とはあのフヨフヨ浮いている鮫…ホオジロザメの事だろう。ルパンは確実に奴らのことを知っている。
再度ルパンを見て力の入らない手でその服を握る。

「に…る、な」
「わりぃな、それは怪盗は聞けねぇってもんさ」

コナンは眉間に皺を寄せて睨むが、雨鮫によって降らされた雨属性の炎が混じった鎮静の雨には誰にも逆らえない。カクンといきなり眠りに入った。ルパンは眠ったコナンを壁に寄りかからせる。FBIとアラン・スミシーの一部の人間がぐっすり夢の世界に旅立っていた。…五右エ門も気持ちよさそうに寝ていた。
そして視線をルチアーノに向ける。
「嫌だ、嫌だ」と左右に頭を振るルチアーノとその部下全員に鎖が繋がれ、霧から出てきた包帯まみれの人物たち…復讐者たちは問答無用に鎖を引っ張る。
ルパンは当たり前だが彼らを見るのは初めてだ。復讐者(ヴィンデェチェ)はマフィアの掟の番人で、法で裁けない者を裁く存在だという。
復讐者の一人は倉庫の外…三雲を視界にとらえると何事もなかったかのように仲間たちと共に霧に消える。


「…終わりましたね」
「…死人が誰もいなくてよかったよ」

倉庫を離れていた所で見ていた三雲は復讐者が消えるとホッと息を吐く。
倉庫ではルパンが五右エ門を車に乗せ、こちらにブンブン手を振って空港から立ち去ろうとしていた。
その後にはアラン達が乗っている車が出てくる。

「鉱石はヴェスパニア王国に…闇の者は闇の者に裁かれる…」
「誰も死ななくてよかったですよ…まぁあの二人は不満でしょうがね」

天野は倉庫から出てきてすぐにこちらを見てくる二人に苦笑した。
今回あの二人はルチアーノの誘導尋問だったのだ。二人に任せるまでもなかったが、他の人物だと我慢できずに殺してしまうかもしれない。それほどヴァリアーという存在は殺しに対して遠慮がない集団なのだ。ルッスーリアの件も考えたが、ほらあんな性格だし…、フランもやる気がないし…そうなるとまともに尋問が出来き、殺しを我慢できるのはこの二人しかいないのだ。

「ま、ヴェスパニア鉱石もおじさま達がしっかり返してくれるだろうし…ルチアーノは法で裁かれる…エミリオのライブは成功、アラン・スミシーの国はボンゴレがバックに着く」
「…不満なのは途中で戦闘不能にされたFBIと警察ですね」

天野のその言葉に三雲は苦笑を漏らす。
今回は様々な機関、組織、人が関わっていた。
国を他国から助けたいアラン・スミシー、それに目をつけヴェスパニア王国から無断で盗んだヴェスパニア鉱石を売るルチアーノファミリー、そのルチアーノが取引をするための隠れ蓑になるアイドル…エミリオ、ヴェスパニア鉱石を護りたいヴェスパニア王国、その王国から依頼されたルパン三世一派、戦争を起こす前にと…ルパンと協力関係を結んだボンゴレファミリー、ルパンの動きに敏感に反応したコナン否…工藤新一、そして彼と共に協力関係になったFBI、ルパンを捕まえることを使命としている銭形警部、その銭形警部と共に行動した警視庁捜査一課、ルパンとその裏で動いている者たちから国を護らんと動いた警察庁警備局警備企画課、そして最後に闇に生きる者達を裁く復讐者…。

「ま、終わりよければそれでよしってね」
「ゼロからの説教が待っているがな」
「ぐっ…」

天野の言葉に言葉を詰まらせ、車の後部座席にて寝ている男…降谷零に苦笑をこぼす。
天野はスマホを手に取ると、スクアーロたちに連絡を入れる為、その場を離れる。
それを確認すると三雲は降谷の額に己のそれをつける。

「まだ…こちらには来ないで…」

小さく呟かれた言葉は彼女の本音。
降谷零(公安)、安室透(探偵)、バーボン(黒の組織)…三つの顔を持っている降谷に更にマフィアという立場を与えたくないのだ。婚約した以上避けられないだろうが、それでもそれはまだでいい。
三雲は雨の上がった空から見える満月を見て深く息を吐く。
これから後片付けが待っている。
スマホをポケットから取り出し、近くで待機しているだろう松田にFBIとコナンを回収するように連絡し、アサリに監視カメラに潜入し動画の編集をするように指示をしなければならない。

「あ、松田さん?終わりましたのでーー」

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所変わって警察庁では…。
一人の黒髪黒目の女がカタカタキーボードを叩きながら忌々し気に舌打ちをする。

「これじゃない…どこにあるNOCリストっ!!」

ゆっくりする間もなく、その時は着々と近づいているのだった。