準備

ピンポーンと軽快な音が部屋に響きわたり、ここの住人である沖矢…否まだ変装する前だった為赤井でいいだろう。
赤井は首元に付いていた変声器をピッと押し、液晶モニターをのぞき込む。

「はい」
『朝早くにすみません、赤井さん』

そこには黒のスーツを着、ハニーブラウンの髪を一つにまとめ、マンダリンガーネットを思わせる瞳でこちらをみる女性がいた。


「驚いたな、まさか君が尋ねてくるなんて…」

赤井は素直に扉を開け、彼女をリビングに通した。三雲は彼が入れてくれた紅茶を一口飲むと、彼女はにっこりと笑みを浮かべてこちらを見てくる。

「さて、では君は一体何の用でここに来たのかな?」

赤井は黒のジャケットを着て、ギターケースからライフルを取り出し、点検しながらそう聞けば彼女は紅茶をソーサーに置く。

「赤井さん、今回の件、貴方と行動を共にします」
「…ふっ、伺いではなく決定なのだな」
「勿論」
「報酬は?」

赤井は三雲の方を見てそう聞けば彼女はまるで分っているといわんばかりに笑みを浮かべる。
その姿は正しく裏の人間の顔。普通の一般人ができるような笑みではない。

「私の正体ってところで」
「成程、君の正体か…それは欲しい情報ではあるな」

そう彼女の情報はFBIのハッカーを使ってもまともな情報は得られていない。
沢田三雲。幼少小中は日本の並盛で生活し、高校は都内にある私立梟谷学園で過ごし、大学はイタリア文学科を専攻。何度かイタリアへ留学し、現在はあのボンゴレカンパニーの秘書をしている。という一般人の情報しかなかったのだ。
だが一般人が何故黒の組織など危険きまわりない組織へ潜入するのか…。とてもじゃないが上記の情報から想像できないほど普通じゃないのだ。ましてや彼女は己の身体を小さくして組織に潜入していたぐらいだ。後ろに大きなバックが付いているのは確かだ。
彼女を特定するのに大きなヒントは数年前スコッチが死ぬ時に現れた"骸"という男、そしてその彼が放った言葉"実態の掴めぬ幻影"、そして"ツナ"と呼ばれる人物だ。
ツナという人物に関しては既に調べが付いている。
彼の弟である沢田綱吉の愛称だろう。彼も情報では一般人のそれと変わらない。
幼少、小中高は全て並盛で過ごし、大学は姉である彼女と同じイタリア専攻を出て、ボンゴレカンパニーに就職したらしい。
彼らがイタリアに固執するのは彼らの血にイタリア人の血が入っているからだと思われる。
だがそれをとっても彼女があの組織に身を置くには平凡すぎる情報しかないのだ。初めは公安かと思い調べたが、彼女に関する情報は警察には無かった。
彼女がどこに所属しているのか…その情報はこれからとても役立つだろう。
赤井は上記のことを約5秒ほどで思い、一つ頷く。

「よかろう」
「ふふ、赤井さんならそう言ってくれると思ったよ。但し私の情報はすべてのことが終わってから」
「…ほかにも条件があるのだろう?」
「流石」

赤井の言葉に彼女はまたニコリと笑みを浮かべる。
三雲は少なくとも赤井秀一という人物を理解していた。
それは仕事だけではなく、プライベートの方もだ。
組織の仕事をしている時は従順なふりをし、機会を虎視眈々と狙う獣で、プライベートではまるでネジが外れたぐらいのポンコツさを発揮する。
組織に接触するためにFBIという組織に入るぐらい洞察力もあるし、知識もある。そして何よりその狙撃の腕前は組織の中でもトップクラスだった。FBIでも彼ほどの腕前を持つ人物は少ないだろう。
プライベートでは自分に関すること以外は基本我関せずで、家事なんて使えないの一言だったし、言葉かけに関しても一言余計で降谷の怒りを買うのは当たり前で、一言言えば不器用なのだろう。

「ほぉ、聞こうか?」
「さっきも言いましたが、今回の件では私に全面協力すること」
「あぁ」
「FBIが得た情報を流すこと」
「…場合にもよるが」
「なら結構です、ハッキングします」
「…」

警察の前でそれを堂々と宣言するのか…。
赤井は若干呆れながら彼女を見る。

「それと、キュラソーは私たちが貰います」
「…それはFBIに喧嘩を売っているのか」

赤井の声のトーンが下がる。部屋の温度も若干下がった気がするが、彼女は全く気にする様子はない。
赤井の顔は一般から見たら整った顔ではあるが、こう殺気を漏らすと、どこのやが付くモノか分からない程凶悪になる。そんな顔を正面から見た一般人ならば倒れていてもおかしくない。

「いいえ、組織を壊滅させるためには私たちが貰った方が効率がいいと思っているまで」
「…そうと決まっているわけではないだろう」
「私たちにはそれに特化した部隊がいるので…彼らの任務成功率は100%です…とまぁそれは良いです。ならばどの組織が彼女を奪えるか戦争ですね」
「FBI、公安、組織、そして君たちか」
「えぇ」

ニヤリと笑みを二人は浮かべる。

「あとこちらとしては、これからもFBIと協力関係でありたいのですが?」
「…それは君の後ろにいる正体を知ってからだ」

赤井はギターケースを閉めジャケットを羽織り、FBIから支給されているインカムをつけようとした時彼女の待ったの声がかかる。

「こっちを使ってください」

そう言って渡されたのはバイク用のインカムに似た形状のインカムだった。

「これは私たちの技術者が開発したものです。音漏れも無いですし、小声でも十分相手に声を伝えることも可能ですし、電波距離も4qです」

赤井は黒いインカムを不思議そうに眺めた。デザインは先程も言った通りバイク用のインカムの形をしている。耳に付けて分かるが、まるで己専用に作られたのではないかというくらいフィットしており、これなら長時間つけていても痛みを感じないだろう…。

「それは赤井さん専用に作りましたので差し上げます」
「俺用?いいのか?」
「構いません。私のインカムともペアリング済みです」
「電源は…」
「それをつけて己の名前を言ってください」

それだけでいいのか?と思いながら恐る恐る口を開く。

「赤井秀一」

すると、インカムの電源がひとりでに入る。

『音声確認いたしました。赤井秀一様、案内をいたしますライと申します』
「!?」
『三雲様より説明がありましたと思いますが、基本電源ONの時は装着後ご自身の名前を、OFF時には終了とおっしゃってくださいませ』

いきなり聞こえた声に驚き赤井はフルフルと震えながら説明を聞いているようだ。
基本的な説明をし終えた後は、電波距離、最大通話時間等の機器の説明が入る。
驚くことに録画機能もあるらしく、「開始」の言葉で録画を開始することもできるらしい。

『ご不明な点がありましたら、私の名前をお呼びくださいませ』

そう言ってからインカムからは何も聞こえなくなった。

「それは赤井さんの声と耳の形が一致して初めて動き出します。パソコンに繋いで動画を見る際は赤井さんの声と耳が必要になりますので、他人から情報を護ります。また必要だとこの中にいるライが判断すれば、録画を全て消去もしてくれます」
「…本当に君は何者だ…」

三雲はそれにニッコリと笑うとソファーから立ち上がる。

「それを知りたければお手伝いして下され」