倉庫内

日もだいぶ落ちてきた時間帯。
赤井と三雲は一つの倉庫に向かっていた。

「よく発信機なんてつけられたな」
「まぁうちの技術者を侮らないでね」

倉庫の傍には降谷の愛車であるRXー7とジンの愛車があった。赤井はそれを見てから倉庫に視線を向ける。
そして彼女がいた場所に目線をやればどこにもいない。

「!?」
『上』

赤井は焦って近くを見渡し、聞こえたインカムの通り上を見れば、器用に倉庫の屋根を上り終え、こちらに手を振る彼女の姿があった。

『丁度倉庫の穴が開いていて中の様子が見れるわ』
「一体何をするきだ」
『…そうね、私が彼を逃がすように狙撃するわ、その後私が合図するから彼が逃げたようにする為に倉庫の扉開けてくれます?私ピッキングって苦手なの』

赤井はその言葉に倉庫の扉に付いている南京錠を見て、彼女を見る。
彼女の服装は動きやすそうなジーパンに半そでの白のパーカーにナイキの靴、ウエストポーチだ。そうどこにも銃らしいものは持っていないのだ。

「銃も無いのに、狙撃なぞできるわけないだろう!!俺と場所を変われ」
『…さっきも言ったでしょ?ピッキング苦手なのよ。それに全面的に協力するんでしょ?』

話は終わったといわんばかりに彼女は姿を消した。
赤井は忌々しそうに舌打ちをする。
彼女は組織に居る時は銃など使ったこともないはずだ。透視能力の眼で敵の数や地形を見るのが主だった。だが本来の年齢があれならば、彼女の本来の巣で訓練されたという可能性もある。
だがどっちにしても自分より狙撃の腕は落ちることは間違いないだろう…赤井はそう思い、イライラをぬぐうように針金を南京錠へ差し込む。

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一方倉庫の上では三雲は右指に付けているリングに橙色の炎を灯す。そしてそれを腰に付けていたウエストポーチから取り出した橙色の匣兵器に差し込む。
オレンジ色の炎を纏ったライファーンは言われずとも分かっているようで、すぐに一丁のライフルへと姿を変える。
それを穴から差し込み、スコープを見る。
中では手錠をつけられたキールとバーボンが柱にくくりつけられている。
二人の寿命を見る限り、すぐに死ぬことはやはりないらしい。まずはそのことにホッと息を吐く。
キュラソーに関しては先程リボーンにすべてを任せた上に、連絡するなと伝えているため、安心してこちらに集中できる。
倉庫内にはウォッカ、ベルモット、ジンがいる。寿命は最後に見た日から計算するに特に変わりはないようだ。
話の内容を聞けば、相変わらずのジンの「疑わしきは罰する」から始まり、どっちがノックだという会話のようだ。二人は「違う」と否定を繰り返す。それはそうだ。相手がノックだといえば、己もノックだと言っているようなものだ。ジンは手錠を外そうとするキールに一発鉛を打ち込む。

「ウォッカ、カウントしろ」

ジンの言葉にウォッカがカウントをする。
三雲は大きく息を吸って吐き、標準をジンの持つ拳銃に当てる。呼吸を止めたことにより、標準のズレは無くなる。あとはその時を待つだけだ。
時間がゼロに近づくとベルモットが焦ったような声をだす。三雲は酸素が無くなり、クリアになった脳内で"これは何かあるな…"と思う。恐らくバーボンが何かベルモットにとっての弱みを持っており、それがバーボンの死の際どこかに流れるという仕組みだろう。そのため、ベルモットはバーボンに向かれている銃に焦りを出しているのだ。

「6、5、4、3、2、1…0」
「さぁ、まずは貴様だ、バーボン!!」

カチャと音を立ててセーフティが外されその銃口は真っ直ぐにバーボンに向いている。

ーパシュッ!!パシュッ!!パシュッ!!

3発、頭上から微かに聞こえた空気の抜けるような音はジンの銃を持つ右手と、拳銃、そして彼の頭上にあったライトを壊した。ライトはそのまま地面に置いてあったスタンドライトに直撃し、倉庫内は暗闇に包まれた。

「ぐぁうああ!!!」
「兄貴っ!!」

ジンは右手に襲い掛かる痛みにその場に膝をつける。ウォッカはすぐさまジンに駆け寄り、ベルモットは持っていたスマホでノックだと考えられる二人のいる柱を照らすが、そこにいるのはキールのみだった。

「バーボンがいない!!」
「くそ、どうやって…」

悔し気な声が聞こえたと同時に三雲は赤井に指示を出す。
赤井はすぐさまバンッと扉を蹴り上げ、駆けだす。ジンは痛みにこらえながら「追えっ!!」と指示をだす。それに反応して追いかけるのはウォッカだ。
ベルモットは急いでジンに駆け寄り、傷口を確認する。

「!!何これっ!!」
「くっ、動かねぇっ…」

ジンの手はまるで鉄か何かになったかのように固く、冷たくなり、指を動かすことができなくなっていた。
キールはそれを遠目からも見ており、驚愕に目を見開く。ジンは忌々しそうに無事だった左手で同じく打たれた銃を持ったが、それはまるで血液のようにドロッと形ない物に変わってしまった。

「どういうことよ…」
「…ベルモット銃を貸せ」

ジンは液体となった銃を見て忌々しそうにベルモットから銃を受け取り、標準をキールに向ける。
だがその時ベルモットのスマホが震え、彼女はジンを止める。

「キュラソーからメールが届いたそうよ。"二人は関係なかった"…と」
「っ記憶が戻ったのか?」

ジンが動かなくなった右手を忌々し気に見ながらそう尋ねれば、ベルモットは心配そうにジンを見て頷く。
その後にメールの続きを読み上げる。

「ラムからのメールには続きがある。"届いたメールが本当にキュラソーが送ったのか確かめる必要がある"とのこと。警察病院からの奪還となるとかなり厄介そうだけど…」
「案ずることはねぇ、俺の読みが正しければ、そろそろ動きがあるはずだ」

その後ジンは誰かに電話をかける。利き手である右手が使えずかなりいらだっているようだった。
そして彼らは何やら"アレ"と呼ばれるモノを使って任務を遂行させるつもりらしい。
その後はウォッカも合流して、三人は東都水族館に向けて倉庫を後にした。