水族館へ

完全に倉庫内から気配が無くなって三雲は、そこに降り立つ。
いきなり人が降ってきたことに驚いたのは今だ柱にくくりつけられているキールだった。

「あ、貴女なにっ!?」
「久しぶり、キール」

三雲は降りる際頭に被っていたフードを外せば、キールの眼は驚愕に開かれる。

「え?その顔、ブルー、ムーン?え、嘘よ、彼女はまだ小さくて…しかもベルモットを庇って死んだって…」
「うん、それが全て嘘なのよ」

混乱しているキールに彼女は傷口に包帯を巻いていく。キールはその姿を目に止めて懐かしいと感じた。
任務で怪我をするとあの小さな子供はせっせかと治療してくれたのだった。そして包帯の結び目が必ず縦になり、苦笑していたのだ。
キュッと結ばれた包帯を見れば、それは縦結び。キールは面白そうに笑いだす。

「ふふふ、やっぱり縦結びなのね」
「…人にするとできないの」

苦笑を返す彼女にキール…水無玲奈は笑みを浮かべて、そしてハタと気づく。

「でも貴女なんでこんなところにっ」
「あぁそれは…透もういいよ」

彼女はそう言った時、荷物が置かれていた場所からバーボン…安室透が出てくる。

「…助かったよ三雲」
「バーボンっ!!逃げたんじゃなかったの?」

安室は苦笑しながら三雲の傍に立ち、彼女の頭を撫でる。

「まぁ私の腕前に感謝ってところね」

ブイブイとピースサインをしてニコッと笑う彼女に安室は「本当、助かったよ」と呟く。

「いろいろ聞きたいと思うけど、簡単に言えば私もとある組織からのスパイだったの。子供になっていたのはアレの方が中枢まで入り込めるし、子供には大人は警戒を緩めるでしょ?」
「確かに…でも組織って?」
「ボンゴレ」
「!!!ボンゴレって…まさか!!」
「そ、イタリアンマフィアのボンゴレファミリー。私はそのボンゴレの創立者の直系の子孫で、現ボンゴレボスの姉」
「う、嘘でしょ…しかも、子孫で、ボスの姉って…そんな大物が」
「本当だよ、黒の組織はイタリアでも日本でもいろいろとやってくれているからね」

信じられないとばかりに安室を見る水無に苦笑しながら彼はそう返す。

「じゃさっきの銃は!?」
「まぁ私が撃ったんだけど…説明すると長くなっちゃうから」
「まぁ、ボンゴレだしね…バーボンは知っているのね」
「まぁ、婚約者なので」
「…は?婚、約者?」

ポカーンと口を開けて固まる水無に安室は苦笑を返す。その時三雲のインカムにリボーンから連絡が入る。
"キュラソーが警察病院から東都水族館に連れていかれた"という内容と"黒の組織の人間がその後を追っている"というものだった。
ギャイギャイ言い合い…というか水無から一方的に叫ばれている安室に声をかければ、彼はすぐ頷く。水無も頷いて早く行くように促してくる。

「移動はっ!!」
「ん!!」

彼女が指を指した方には彼にとってなじみ深い彼がいた。

「今日は動けない天野の代わりになりますよ〜」

そう言って笑みを浮かべるのは、本来イタリアの方で子供たちと遊んだりしている萩原だった。
彼はトヨタのハリアーの扉を開いて待っていた。安室…降谷は困ったように笑いながら「助かった」と小さく呟く。それに笑みを浮かべて萩原は三雲を車に乗せると、降谷にポイっとスマホを渡す。

「ほらどうせ、スマホ破壊していて連絡する手段ないんだろ?」
「アサリに貴方のスマホのデータはボンゴレアジトにバックアップしてあるわ。アサリを呼び出して、電話したい人の名前を言えばコールしてくれるわ」
「…何から何まですまない…アサリ」

そう言ってから降谷は部下である風見に連絡を取った。
それを確認した萩原は助手席に座る三雲に視線をやる。

「それで、お嬢はどう動くんですか?」

ニヤニヤと既に何をするか分かっているような笑みを浮かべる彼に彼女は溜息をこぼす。

「分かっているくせに…あぁそうだ萩原、貴方にも仕事を頼むわ」
「ん?」
「なぁに、貴方にとっては専門分野よ」

ニヤリと笑みを浮かべてこちらに視線をやる三雲に萩原は一瞬キョトンとした顔をして、その口角を上に上げる。

「へぇ…そりゃ楽しみですな」
「腕は鈍っていないでしょ」
「勿論デスヨ、あっちでも獄寺さんと共に鍛えられましたしね」

ハリアーはグンッとスピードを上げて東都水族館へ向かうのだった。