譲れないモノ

一方観覧車の上では赤井と降谷による激しい乱闘が繰り広げられていた。

「何故、貴様が三雲と共に行動していたんだ!!」

降谷は赤井の口から彼女と行動していたという事実を聞き、頭に血が上っていた。降谷はてっきり彼女と萩原が共に仕事をしたのだと思っていたのだ。

「何故って、彼女から頼まれたからさ」
「ふざけるな!!」

彼女は何時だって人を頼ろうとしない。頼りにしているのは彼女のファミリーだけだった。
そりゃ、ボンゴレという巨大マフィアに比べると俺という存在はちっぽけな存在だろう。だから前回の件だって彼女は俺に何も言わず、ファミリーとルパンと共にヴェスパニア鉱石を取り戻した。
俺がどんなに問い詰めても簡単には口を開かない。
なのに、コイツには自分から頼っただと…。
フツフツと湧き上がる怒りに任せて降谷は拳を振るう。
赤井のジークンドーと自分のボクシングは相性が悪いらしく、すぐに受け止められてしまう。

「そう言えば降谷くん、君は彼女の婚約者らしいじゃないか」
「それが、どうしたっ!!」
「その婚約、解消してくれないか?」
「何!?」

どういうことだ。彼女のことを奴は殆ど知らないんじゃないのか?

「何、純粋に彼女の力が欲しいだけさ。どうせ君は彼女のことを愛してはいないんだろう」

……そうだ。彼女のことは愛していない。
彼女はボンゴレという巨大な組織の重要な位置にいる存在。そんな存在と偽りでも婚約すれば、裏の世界の動きを知ることができ、またボンゴレという組織を監視できると思ったからだ。
ボンゴレは確かに強大な力を持っていた。身体を小さくする薬など、医療の方でもそれは最先端の技術をもち、武力では動物兵器なんてモノも作っている。…だが、彼らはそれをいたずらに使用することなく、世界を…己の家族を護るためだけに使っていた。"白マフィア"…正しくその言葉通りの行動しかしていない。
監視する必要のないくらい、彼らは真っ白で世界を護っている。

「彼女の能力は俺よりも上だ。頭の回転の速さ、的確に指示を与える統率者としての力、そして狙撃の腕は俺を超えている。そんな彼女が俺はほしい」

そう、監視なんていらないんだ。
それに彼女達は俺の仲間を何人も救ってくれた。そしてすべての中枢にいた彼女はその小さな背中にボンゴレも、弟が知らない人の死を…様々なモノを背負って生きている。そんな彼女を俺は何時しか護りたい、支えたいと思うようになっていた。
確かに初めは愛もない、ただの警戒だけからの関係だった。でも今は違うっ!!

「悪いが、彼女は誰にも渡さないっ!!俺のモノだ!!!」
「ほぉ〜…なら俺は君を倒し、君と同じラインに立たせてもらう」

赤井が構えた瞬間降谷は拳を握ってとびかかる。

ー彼女が頼れる存在に…俺はなる

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カンカンカンカンっと階段をひたすら登っていたコナンは、後ろから聞こえる、タンッという軽快な音に下を見る。
と同時に手すりに手がかかり、クルっと一回転して三雲が現れる。

「なっ!!三雲さんっ!!」
「階段より早いでしょ」
「いや、早いっていうか危ないからっ!!」

手すりに器用に猫のように座って上を見る彼女の耳には微かではあるものの殴りあう音が聞こえていた。

「チッ、あのバカ共め」
「え?」
「先に行くよ」

そう言うと彼女は跳躍し、またも上の階段の踊り場に手をかけ、器用に上へと登っていく。
そして二人の声が聞こえる位置まで来るとライファーンを出し、形態変化させる。
そして両手でその刃を持つと、今にも第二ラウンドをしようとしている二人の間に一瞬で入り込む。

「そこまで」
「「っ!!!」」

降谷と赤井は瞬時に入ってきた人物にその動きを止める。双剣の切っ先は二人の喉元ギリギリにあった。

「何、この忙しい時に殴り合いなぞしている」

彼女の言葉はいつも聞いているものとはけた違いに低く、また言葉遣いも全く違う。
二人は完全に動きを…そして呼吸すら止めた。
いつもはキラキラと光っているマンダリンガーネットが今はオレンジサファイアのように一段階色を落としている。

「言え、何故この忙しい時に殴り合いをしている」
「「…スミマセン」」


カンカンカンカンと音を立てて登ってきたコナンはその異様な光景に目を見開いた。
大の大人である二人が、自分より年下の女性の前で正座をし、無言の説教を受けていたのだ。

「私は理由を言えと言っている…こっちが裏で汗水たらして働いているというのに、貴様ら…FBIと公安のエース様達は仲良く喧嘩か?あ"?」
「「すみません」」
「すみませんで済んだら、FBIも公安もいらねぇっつってんだろ!!!」

普段温厚な人を怒らせると豹変するとは本当のことだったんだな…。コナンはふとそんなことを思い、三雲を見ていた。

「チッ、こんなことをしている時間ももったいない、おら今からは協力しやがれ…コナンくん」
「はぃい!!」
「?何をビビっているの?…この馬鹿たちに今の現状を説明してやって」

名前を呼ばれたコナンは思わずビビったモノのその後の姿はいつもの沢田三雲だった。