「っ!!」
「っブルームーン!!!」

ドッシャと音を立てて倒れたブルームーンにキュラソーは急いで駆け寄ろうとするが、腹に刺さった鉄棒が痛み、その場にうずくまる。
遠くからも分かるぐらいブルームーンの顔色は悪く、真っ白と言ってもおかしくない程色がない。

「ぶ、ブルー、ムーンっ…三雲っ」

震える足で立ちあがろうとするが、グラリと身体が傾く。

「おっと、大丈夫か?キュラソー」

キュラソーの傾いた身体を支えたのは銀色の短髪の男だった。彼はすぐにキュラソーの腹を見て眉間に皺を寄せる。
キュラソーは男に必死に「お前はっ?っそれより、ブルームーン、がっ」と伝える。銀髪の男…笹川はキュラソーの言葉に安心するように笑う。

「俺はお嬢の仲間、笹川了平だ。それにお嬢は大丈夫だ!!極g…少し、力を使いすぎただけだ…それよりもお前の傷だな」

キュラソーはその言葉で、倒れているブルームーンを見る。彼女は黒髪の男が抱き上げているところだった。
彼の言った通りブルームーンこと三雲は顔色は青白いもののしっかり呼吸をしていた。ただ力を使いすぎて身体の機能を最低限に抑えて命の源である生命力を補う状態だ。といっても全ての生命力を死ぬ気の炎として匣兵器に与えていたら、死んでもおかしくはなかったのだが、彼女はそこら辺の調整が弟よりもはるかに上手かった。黒髪の男…雲雀は息をしていること、脈があることを確認するとホッと息を吐き、インカムにて彼女の無事を伝える。
何せあの大きさのライファーンを出したうえ、その前から休憩なしで死ぬ気の炎を使っていたのだから最悪の場合も考えられる。あの大きな巨大鳥を見た瞬間、傍観を決め込んでいた雲雀は目を見開き彼女がいるであろう場所に走っていったのだ。
笹川も分かっていたとは言え、息を小さく吐くと匣兵器に炎を灯す。

「極限に痒いかもしれないが、我慢してくれ」

匣兵器から出てきたのは彼の相棒である晴カンガルーだ。キュラソーはそのリングと匣、そしてカンガルーの額に付いていたシンボルを見ると全てのことを理解し、素直にうなずく。
笹川はキュラソーの頷きを見て、思いっきり鉄棒を抜き、相棒に手を伸ばす。晴カンガルーのお腹の袋から晴れの炎を纏った布を取り出すとそれを傷口に当てる。
キュラソーの傷はもぞもぞとした痒みを与えながら傷を塞いでいく。

「ある程度塞いだらいくよ。あいつの霧ももうすぐ解ける」
「あぁもうちょっと…よし、良いぞ」

笹川は晴カンガルーを匣兵器に戻すとすぐにその場を離れようとする雲雀についていく。勿論その腕にはキュラソーがいる。

「安心しろ、俺達はお前を保護しに来たんだ」
「保護?何故だ?」
「自分の命を捨てようとしてまで、子供を助けようとした行い…極限にすごかったぞ!!」
「答えになってないよ…君を保護することで組織の情報を得る」

やはり、そのことか…キュラソーは眉間に皺を寄せうつむく。
自分は組織の2であるラムの右腕で、数年前には組織に都合の悪い情報を得てしまった。そんな自分が組織と相対する組織に捕えられたら何があるか分かっていたことだ。きっとブルームーンが言っていたことは、そう言うことだろう…。

「だけど」
「え?」
「きっとあの草食動物…ボスと三雲はそう思っていない」

その言葉に彼女は顔を上げる。
笹川も「そうだな」と笑っている。

「あの優しさの塊のボスはきっと良い処置をしてくれるさ」

ははっと笑う笹川にキュラソーも笑みを始めて浮かべた。
そして、観覧車を振り返り、遠くで無事ゴンドラから救出された子供たちを目に焼きつけたのだった。

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一方降谷は三雲の行方を捜していた。インカムにて雲雀から連絡は入ったもののやはり自分の眼で見て症状を確認したい。観覧車の方に向かって歩いていれば声をかけられた。

「チャオッス、レーイ」
「!!リボーンさんと…赤井」

声が聞こえたほうを見れば、そこにはリボーンとタバコを片手に赤井が立っていた。
降谷は忌々しそうに赤井を睨んだが、リボーンがクイクイと指で手招きするため、息を吐いて彼らの傍に近寄る。

「あの、リボーンさん、俺のことは…」
「あぁ、そうだったな、安室」

赤井はこの異様な光景に目を見開いていた。
こんな子供相手に降谷が下手に出て接しているのだ。
確かにこの子供は銃の腕は俺と同等…否、下手したら俺より上だ。だがそれでも、あの…あのプライドの塊と言ってもおかしくない降谷が下手に出ているのだ。
そしてこの子供の対応…明らかに子供のソレではない。そうそれは、あの小さな名探偵が時々見せる姿に酷似している。

「それでどうして呼んだんですか?」
「詳しくは、三雲が目覚めてからになるが…あの状態だとしばらくは無理だろうな」
「ちょ、待ってください!!三雲そんなに酷いんですかっ!?」

雲雀からのインカムは「三雲は保護した、今は寝ている」としか入らなかった。
リボーンは雲雀の言葉の足りなさに溜息を吐く。

「まぁ、あれだけの巨大なライファーンを呼んだんだ…生命力ギリギリを使ったんだろう」
「???」
「…寝ているだけなんですよね」
「あぁ、生命力を回復させるには休むことが一番の薬だ」

赤井だけがはてなを浮かべている中、降谷はリボーンの言葉に納得して頷く。

「でだ、取り敢えず報告する。キュラソーは俺たちのモノになった」
「「!!!」」

リボーンの言葉で二人は察する。
キュラソーを手に入れた組織は奴らを壊滅させるだけの情報を持っている。それだけあの女には価値があった。公安もFBIもそれを狙って今回動いていたが、手にしたのは警察ではない組織。

「…さすがですね」
「ふっ、俺の弟子だからな」

降谷は苦笑しながら肩の力を抜く。赤井はその降谷を見てまたもや驚いていた。

ーあの降谷くんが負けを認めた…だとっ!?

赤井はリボーンが言った言葉よりもそっちの方が気になってしまっていた。
キュラソーが取られたのは仕方ない。下手したら彼女はあの観覧車のせいでつぶれてしまっていただろう。それを助けた彼女ならば、確保するのは当たり前だ。それに…わざわざそれを言うだけで俺達二人を呼ぶはずがない。

「でだ、キュラソーから情報を得次第、お前たちの組織とは協力関係を結びたい」
「…俺たちは上に聞かなければなりませんが、きっと許可は出るはずです」
「だろうな、FBIはどうだ?」
「まずは、君たちの正体を知る必要があるな…安室くんは知っているようだが俺は何も知らない」

赤井の言葉にリボーンは一つ頷く。

「それに関しても三雲が目覚めてからだな」
「約束だ」
「あぁ俺達は約束は破らねぇ」

そう言ってリボーンは歩きだす。

「詳細は後日連絡する、じゃぁな」

リボーンが歩いている先には藍色の髪をし、三又の槍を持った男…骸がいた。骸の出す霧によってリボーンと骸の姿は霧の中に消えていった。

「いろいろ聞きたいことはあるが、それは後日聞こう」
「…そうしてもらうと助かるな…今日は疲れた」
「……同感だ」

赤井のその言葉と共に吐き出された煙は太陽の光の中に消えていった。