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「あぁ、目が覚めたのか」
「あ、う、ん」

サボは顔を真っ赤にして頷く。
そんなサボに対してローは何かを感じ取ったのだろう眉間に皺がより、睨むようにサボを見る。そんなローに待ったく気づかない二人は話しを進めていく。

「シャルは俺達と殆ど変わらないんだろ?」
「そうだね、4歳ぐらい上かな?」
「…ローがここで一番強いのはシャルだって言ってるけど…本当なのか?」

サボはジッと彼女を見る。
そんなサボにキョトンとした目をしつつ、ローにチラッと目線をやれば、ローは気まずそうに視線を逸らす。

「んー強いかどうかといわれたらそうでもないよ」
「えー、そうなのか?」
「そうよ」

彼女の言葉に不満そうにしていたサボだがいいことを思いついたようで、ぱぁと顔を明るくさせる。
その顔を見た瞬間シャルにはあの人の息子で、可愛い弟の親友が浮かんだ。

ーあぁ、子供ってこんな無茶なこと言いだすんだっけ?
そして絶対その言葉を撤回しないのよね…。

「ならさ!ハックと戦ってくれよ!俺先にハックに伝えてくるからよ、はやく来いよ!」

あぁほら…と彼女は思った。
そんな彼女の顔を見たローはニヤニヤとしている。サボはこちらの回答を聞く前にさっさと本部に入りハックを探しているようだ。

「…ロー、何ニヤニヤしてるのよ」
「ククク…いい顔してんじゃねぇか」
「……」

ローをじとりと見た後彼女は深いため息を吐いて本部へ足を進める。
彼女にとってローも子供…だがもともと頭も良かったせいもあり、ローはそこらの子供と思考回路が違うようだ。先程のサボを見て本当はあのくらいが年相応なのだろうと感じた。
「私もあの子達もローも子供らしくないな」…そう呟く。
その言葉が聞こえたローは「あの子たち?」と眉間に皺を寄せる。
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数分後子供の声にわらわらと集まった野次馬たち。
彼女はそれを見て溜息を吐く。
まぁ、ここはさびれた島だから…。
そう思いながら彼女は目の前にいる対戦相手をみる。
魚人族の彼ハックは魚人空手の達人。

「あらぁ?お嬢面白そうなことをしているチャブルね」
「あら、イワちゃん、今日は女性なの?」
「そうよぉ」

エンポリオ・イワンコフ、彼女…彼はホルホルの実を食べた人体のエンジニア。
人体のホルモンバランスを自在に操り、女性を男性へ、男性を女性に変えることが可能。
他人には勿論だが自分にもできるようで今日は女性バージョンのようだ。
シャルも特に深く突っ込まずに溜息混じりにこの状況を見る。

「にしても彼面白いことを考えたわね」
「…こちらからすれば迷惑よ」
「あら?ヴァターシからしても興味あるわ」
「……」
「私はお嬢の力は幹部…いいえ、この世界にヴァナータに勝てる人物がいるかどうかも怪しい、とね」

シャルはそう話すイワンコフを冷めた目で見る。
その目で見られたイワンコフはゾクゾクと背筋を走る何かに身震いをする。

「…あまり私のことは探らない方が身のためだよ?」
「…気をつけるわ」

そのやり取りを遠くからでも見ていたローは彼女の周りの空気が一気に下がり、己の命の危険を感じた。
まるで目の前に決して勝てない敵を目にした時の感覚にそれはとても似ていた。
他の人たちは気づいていないのか準備運動をするハックに釘付けだ。
否、幹部やそれなりの経験をしてきた人達はシャルのほうを冷や汗をかきながら見ていた。
そしてとうとう時間となりサボの大きな声が聞こえる。

「みなさんよくお集まりいただきました!これより魚人空手の達人ハックとその力は未知数シャル!」

その言葉とともにあちらこちらから歓声が上がる。
「ねぇさまー!」「お嬢ー!」「ハックー」「がんばれー!!」と様々な声が行きかうなかサボが「はじめ!!」とコングをたたく。
ハックは構えいつでも反撃が出来るような体制をとる。
だがシャルはため息を吐くとだるそうに足を進める。その瞬間だった。
ひとりだったはずの彼女の姿が分身をするように増えていくのだ。

「「!!?」」

これには野次馬達含め流石の幹部たちも驚きを隠せないようであちらこちらから驚愕の声、息をのむ音が聞こえる。
ロー自身も信じられないものを見るようで、隣にいるコラソンを見上げ尋ねる。

「…コラさんあれは…」
「…わからん、彼女の悪魔の実は動物系、一体どうやって」

二人が話している間にシャルはハックの後ろに音もなく回り、手刀をする。
幻影に気を取られていた彼は手も足も出ることなくその場に伏せた。

「…これで終わり」

彼女はそういって己の方に舞い降りたルーファをつれ本部に入っていく。