恋心と迷信
それは間違いなく初恋だった。
今まで沢山の人に出会い、恋愛対象に見てもらえて気恥ずかしいながらお断りした事もある。
私なんかを好きになってくれた優しい人たちは、私がごめんなさいと言うと友達では居たいと譲歩してくれる。
優しい交友関係を築き上げ、私は私なりに沢山の友達ができるだけで幸せだと思っていた。
クラスは違っても仲がいい子は居る。
先生も、ひねくれ者も居るが頑張れば認めてもらえる。だからこそ、私は勉強も運動も頑張った。
好かれたい、人に嫌われたくないというのは万人が持つものだと思うし私がそれに少し執着しがちなのもわかっている。
見た目も、中身も、頑張らなければみんなに認めてなんてもらえない。
人気者の男子テニス部に軽々しく話しかける度に、内心周りの誰かが嫉妬という念をこめてくるのではと怯えた。
それでも、私が彼らと仲良くする理由は自ら仲良くしようとしてくれるから以外に無い。
仲良くしてくれる人を無碍に扱うなど私にはできない。
そんな中、景吾と亮のクラスに転校生がきた。
赤毛でスラリとした細身の男の子。
鉢屋三郎というその男の子に、私は初めて恋をした。
はっきりと自覚したのは、多分鉢屋くんが初めて部活に部員として参加して汗を流すのを見た時だと思う。
友達が増えたという感覚ではなく、目線が彼だけを追いかけるのに最初疑問を持ち何度か首を傾げた。
なんでもそつなくこなすのは、景吾も侑士も同じだがにこりと浮かべる笑顔が可愛らしくきゅっと胸が締め付けられる。
ああ、私鉢屋くんが好きなんだ。
初めて感じるこの気持ちに気恥ずかしくてその日は、自分の部屋で携帯電話に入った鉢屋くんのメールアドレス画面を抱きしめてベッドで暴れた。
以前なら週2日程度しか見に行かなかったテニス部の練習風景を毎日見に行くようになった。
鉢屋くんを見つける度にできるだけ話しかけるようになった。
鉢屋くんは、低血圧で、意外とまとめたり指示を下すのが得意。
古文と日本史と美術が得意。
好きな食べ物は、特にこれと言って無いけれど渋めの緑茶が好き。
そしていつも、鉢屋くんは春本さんを見ていた。
これには、気付きたくなかったし自覚したくなかった。
春本さんが、鉢屋くんを苦しそうな目で見つめているのは知っていた。
隣のクラスの子は鉢屋くんをぽやぽやと憧れの視線で見つめていたからわかる違い。
だからこそ、目立つ春本さんの表情に最初こそ高嶺の花とでも思って辛いのだろうかと思っていた。
しかし、鉢屋くんも春本さんを見ていた。
間違いなく、彼女が少しふらついたりたまにしか現れないコートに顔を出した瞬間。
鉢屋くんはぴくりと肩を震わせた。
そんな二人の奇妙な関係に気付かないフリをして、私は今日も鉢屋くんに恋をする。
明日からは、朝から晩まで鉢屋くんの姿が見える合宿が始まる。
だからこそ、この初恋は最初から実らないなんて、初恋は元々実らないなんて思わない。
きっと、きっと迷信なのだから。
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20120706
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