記憶外成長


私の朝は早い。もちろん日ごろから朝練のために早起きをしているせいもあるだろうが、そもそも忍も使用人も朝が早く睡眠も浅い。
現世をあわせて累計四十年と少し、赤子の頃を差し引きしたとしても三十年あまりそんな生活をしていれば慣れもするし癖になってしまい時計などなくても大体の体内時計で生活ができた。

「ああ、君は」

「おはようございます。不二さん」

名前知っててくれたんだね。とやわらかく笑う彼は作兵衛の現在の先輩で綺麗な汗を首に巻いたタオルで拭う。
おそらくは、早朝にランニングでもしていたのか、昨晩作兵衛が自らランニングしようと誘ってきたのも彼らの動向から感化されたのだろう。
いい環境なのだなと素直に思った。

「お飲み物は?」

「大丈夫だよ、もうすぐ朝ご飯だし」

その細くなる目元の笑い方が、年上の後輩と重なって見えた。
不二は、自分の持っていたボトルに口を付けてコクリと喉を潤し私に向き直る。

「うちのマネージャーと仲いいみたいだね」

「ええ、昔なじみです」

「そう。彼昔から世話焼き?」

「そうですね。昔から」

その場に居ない後輩の学園を大声を張り上げて駆け回る姿を思い出して思わずほくそ笑む。
あの時ほど、彼の過保護で世話焼きが発揮される部分は無いだろう。

「あと、作兵衛は少し妄想が酷い節があります」

「妄想?」

「こう、想像して想像してこうなったらどうしようって」

最悪のケースばかりを考えてしまうのは、いい事でもあり悪い事でもある。
その考えに囚われすぎて何の知略も実行できなければ本末転倒だろう。
そう思い返していれば、不二はううんと唸ってそうかな?と続けて否定の声を上げた。

「富松は確かに想像力は豊かだけど、ならこうすればいいって解決作をよくだすよ。最悪ばっかりを考えてはないかな」

「え?」

「彼の考え方には、僕たちも一目置いてるんだ。先を考えて僕らに指示ができる」

いいマネージャーだよ。という言葉に一瞬気が遠くなる。
あ、と当たり前の事に気づいてしまえば瞬時に恐ろしくなった。
私が死んでからの皆が成長しないわけがない。
思考なら尚の事経験次第で、プラスにも持っていけるだろう。
ある意味、私の知っている彼らはもう居ない。どこにもだ。

「…春本さん?」

呆然としてしまっていれば、不意にかけられた声に顔を持ち上げる。
覗き込んできていた不二に誤魔化す様になんでもないと苦笑いを向け、一度部屋に帰ろうと彼に背を向けた。
当然の事実を突きつけられ、少しだけ困惑した事は否定できない。
出入り口に向かって足を進めようとすれば、何かあるのだろうか跡部らがジャージ姿でこちらに向かってきていた。

「…何かあるんですか?」

「四天宝寺がもうすぐ到着するみたい、起きてる人だけとりあえずお出迎えするんだって」

なるほどと池内さんの説明に相づちをうち、どうやら丁度入ってきたらしい小型バスに目を向ける。
四天宝寺とは、今回が初対面となる故に部長の名前しか把握していない。
降りてくる黄色と黄緑色の中に一人だけ違うジャージが混ざっていた。

「お!彩に似たのがいるぞ!」

びくん、とその声に肩が震えひとりだけでこちらに駆け寄ってきたその人の笑顔と差し出された大きな手のひらに目は自然と見開かれる。

「やはり彩だ!」

私を妹のように一等可愛がってくれた人が変わらぬ笑顔で私を撫でた。
ぐしゃ、くしゃり

「ななま、つ…せんぱ…」

覚えていてくれたのですね。と、言葉にならずにしがみついた。


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20120812

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