泣き喚く女
目の前で大声で無泣き出した彼女に微動だにできない自分がいた。
聞いた事のないわんわんという大声を張り上げ、泣きつく先は今朝方到着したばかりの四天宝寺のOBらしい、目のくりくりとした男で泣くな泣くなと彼女の背を叩く。
「彩お前泣き虫になったか?久しぶりすぎて忘れてしまったぞ!こんなことなら長次か伊作あたりを連れてくるんだった!私失敗したな!」
困っているようには到底見えないその顔は、彼女を女性として涙を拭ってやるわけでもなくただ見下ろした。
OBの後ろから彩先輩じゃないっすか。という気の抜けた顔がひょこりと顔を出せば、それと目線があった彼女が言葉になりきれない彼の名らしい一言をあげる。
泣き喚いているという表現にしか見えないその状況下でも、彼らは平然と彼女を撫でた。
「ん?なんだ、もう縄に繋がれたのか?」
「作兵衛も居たんすよ。でもなんでですかね?俺そんな趣味ないんすけど」
「知らん!三之助がまた迷子にでもなると思ってるんじゃないか?」
「えー、俺迷子なんてならないですって」
状況と会話が成立しないままジャージ姿の二人の間で彼女は泣き続ける。
その横で、いつの間にか縄を片手にため息を吐く青学のマネージャーはちらりとこちらで呆然とする人ごみを睨みつけた。
誰を、などと予想もつか無いまま無言になっていれば彼らから遅れて四天宝寺の面々らしき姿が現れ先輩。とOBを呼んで数回会話を繰り返した。
内容は聞き取れないがおそらくは彼女は?という問いかけだろう平静を取り戻したようにぴたりと彼女の泣き声が小さくなったのを見計らい一度喉に唾液を流し込んで潤した。
「おい、春本」
「…!はい」
ぴくんと俺の声に反応して背筋がしゃんと跳ね上がる。
不思議そうに見てくる彼らを他所に近づいて目元をごまかすように一度手の甲で拭い顔を上げればまるでこなれた使用人の様に頭を下げられた。
「知り合いか?」
「昔なじみ…です」
「アーン?お前とは随分と違うタイプだな」
暗に、接点を問うたとしても彼女がそれ以上何も言わないことなど理解の範疇である。
青学のマネージャーと仲良さげにしている時にも感じたが、幼い頃から見ている限りあんな男との接触は知らない。
どこで?いつ?と幼稚舎より前となれば記憶も曖昧でそれは彼女にもその他の人間にも言えることだろう。
計算が合わない彼らと彼女のつながりにくっと首をひねった。
「まあいい。四天宝寺の部長はどいつだ」
「ん、俺やで白石言います。こっちは今回顧問が来れない代わりに来てくれた七松先輩」
「おう!よろしくな!」
「…荷物持ってついてこい。案内させる」
そう呟いてからぬかった、と舌を打つ。
生憎今の時間に居る使用人は調理場の者しかおらず誰かに案内をさせられない。
仕方ない、と手を上げて指先を曲げてみれば彼女がなにか。と当然のように要件を聞いてきた。
「あいつらを部屋に案内しろ、終わったら朝食だ」
「かしこまりました」
どこか嬉しそうな空気をまとい四天宝寺の方へと向かう彼女を見送り、その背に再度鳴らぬ舌をはじく。
世のすべてを自分が理解しているとは思ってはいない。
しかしながら、世間一般の幼なじみにあたる彼女のあのまとう空気を俺は感じた事がなく、普段のただ従順な態度とは違う雰囲気に違和感どころか怒りさえ覚えた。
まどろっこしいのは好きではない。
これがどういう感情であるかも、わかりたくもない。
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20120828
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