じごくみみ


四天宝寺にマネージャーは在籍していない。
そう聞かされ、池内さんと作兵衛と三人でどうすべきかと悩んだのは朝食の最中だった。
コート位置としては、立海のコートの隣に位置する為に私が担当すべきだろうが二人がそれでは負担がと引いてはくれない。
体力には自信があると言っても優しい二人はどうにも三人で分担すべきであるという意志をまげてくれず、少しだけ困り果てた。

「大丈夫っすよ。俺がほとんどやるんで」

ローテーションで、という案が出たとほぼ同時に朝食を食べ終えたのだろう三之助が作兵衛にのしかかるようにして顔を表した。
重い、と文句を言いながら三之助を押しのける作兵衛に対して、気にしていない様子の三之助はあいていた作兵衛の隣に腰をおろす。

「四天宝寺の一年は、俺ともう一人居るんすけど俺ほとんど練習っていうよりサポートなんで」

「じゃあ、三之助は実質マネージャーなのか?」

「基礎練とかは一緒にやるけど。七松先輩のおかげでどっちもできる」

万能だねー。と感嘆の声をあげる池内さんと同じく、私も流石に体育委員会とあのかけ声を思い起こす。
あの頃は、滝夜叉丸がその役回りだった気がしなくもないが彼ができないわけもないだろう。

「無自覚迷子は緩和されてる…かな?」

練習開始の号令と共にウォーミングアップから各校それぞれのメニューに入っていく。
隣から四天宝寺の様子をうかがっていれば、指示を出す七松先輩のもとで三之助が練習に入ったりサポート業務に入ったりとせわしなく動いていた。
ただ、三之助だけが動くでなくなんとなく均一に仕事は回されているようで七松先輩の指示が生きている。
度々、三之助がよくわからない方向に進みそうになるものの以前の掴んだり引きずったりする必要無く、声をかけられては思い出したように正常な順路に戻っていた。

「四天宝寺はどうだ?」

「…仲がいいですね。マネージャー業は皆で分担するから必要無いと」

「なるほど、な」

カリカリとノートに何かを書き写す音を聞きながら文字列が頭に自然と浮かんでいく。
柳は、どうやら私が珍しくどこかを見やるのが気になっただけらしくその事についても「四天宝寺に知人有」の一文だけでノートが閉じられた。

「今の打ち込みが終わったらコーンを3つ使う」

「すぐ、お持ちします」

「そう堅くなるな。同い年だろう」

「…よく、私に話しかけられますね」

「反応が面白くてな」

きちんと会話に成り立たせないその言葉に、じわりと眉間に皺を寄せる。
反応が面白いと言われるほど酔狂な対応をしているつもりはない。
ただ、彼には昨日少しだけ女性として気遣われたせいか不思議と揺らぐのだ。
優しくされたいという女心が。

「おーい、彩ー!こっちにもコーン2つもってきてくれー」

「はい!すぐに!」

顔に出てしまいそうになる寸でのところで四天宝寺コートから七松先輩に声をかけられる。
頼んだぞ。という笑みと共に早く運ばねばという使命感に駆られ、柳の事を捨て置き用具庫へと駆け込む。
赤いコーンを5つ。
持てなくはないその重さを感じつつ、台車に乗せてついでに使うであろう予備のカゴを一つ追加してコートへ戻る。
ガラガラガラと五月蝿いタイヤの音を鳴らしながら、先に四天宝寺コートに寄れば中から出てきた七松先輩が駆け寄ってきた。

「すまんな!もらおう」

コーンを受け取ると片手で頭を撫でられ、まったく表情を変えないまま七松先輩が小さく唇を動かす。

「しまった、あの距離で聞こえてたら変だったな」

先輩は地獄耳だから聞こえたのでは?と、私は頭を下げながら苦笑いを浮かべて呟いた。


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20120911

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