自己ベスト
明日は、合宿最終日の締めとしてダブルスとシングルスにわかれてのランダムマッチが行われる。
対戦表はなく、その場でくじを引くという仕様により事前に対策をたてる事のできないそれにシングルスはおろかダブルスの面々も最終調整に余念がない。
練習試合とてこれほど白熱が期待できるメンバーもなかなか無いのだろう。
私はいつもどおりにドリンクのボトルを立海のコートに運び込み、額から頬へと伝う汗を手で拭った。
「春本ー!ちょっとタイムとってくれ!」
「はい、すぐ行きます」
コートの出入り口で柔軟をする、桑原と丸井両名からストップウォッチを受け取りスタートと同時にストップウォッチもスタートさせる。
宿舎周りを五周。
約5キロ程の距離のタイムを計測する事で、丸井から桑原に偏りがちな持久力のアップを目指してのメニューになる。
「コーンとカゴを一つづつお願いできますか?」
「柳生のフォームの完コピじゃ。威力も精密さも磨かんとのう」
もう一組のダブルスに呼ばれ、倉庫からコーンとカゴ、そしておそらく足りなくなるであろうボールも準備しておく。
コーンを目印に彼らのレーザービームと呼ばれる技の向上を目的としたそのメニュー。
柳生としては、自分の技の弱点を見いだす機会となる。
これらは、すべて柳の指示によるメニューであり、私自身すべての準備やタイムの計測に身は足りていない。
「では、次は素振りとステップの練習メニューになります。真田さんと切原さんと幸村さんの三名ですね?」
「いや、これは俺も混ざるから四名だ。ラインだけ二本頼む」
「かしこまりました」
コートの隅にラインを二本引きつつ、ふと四周目に入っている桑原と丸井の二名を目に入れた。
ちらりと首に下げたストップウォッチを覗き込めば、この4日間の中で一番スピードも早く疲労感も薄いように伺える。
数日の間で体は万全に近づいているらしく、ほかの立海陣も明日は全力で常勝を掲げるのだろう。
「あと、1日」
ぽつり、唇を震わせばやはり自然と目線が氷帝のコートを捉えすぐに彼を見つけてしまう。
見ていると周りにバレていると知ってから、意図的に見ないように堪えども無意識下であればどうも対処が難しい。
コートで池内さんと共にスコア表を覗き込む姿は和気藹々としていて、今すぐにでも私を覚えていないかと確かめたくなる。
でも、どうにも「すまない、いつ会っただろうか?」などという答えがかえってきた時がこわいのだ。
ただ名字で呼ばれるだけでも涙が溢れそうな程辛いと言うのに、仲睦まじく過ごした日々を無いものとされるのが、恐ろしくてたまらないのだ。
「桑原さん、丸井さん、自己ベスト…ですね」
地面を蹴ってゴール地点から緩く歩き出す二人の姿を確認して止めたばかりのストップウォッチを覗き込む。
ベンチに準備していた彼らの分のタオルとドリンクを持ち、記録を伝えるために足を進めた。
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20121202
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