貪欲な背中
「おー、力技やな」
隣で見ていた侑士がぼそりと端的な感想を述べた。
今はもう常のラリーに戻っているが、フェンスは不恰好に歪みそれにすら平然として挑む鉢屋がラリーをふわりと返す。
「妙や」
「鉢屋、か?」
「七松先輩の第一球にびびってまうんが普通なんやけど、あいつ平気で返しやる。あんなん普通ちゃうわ」
まるで、見慣れているかのような冷静さ。
一年の頃から三年お世話になっている人物であるが、自分はまだあの人の無遠慮な先制攻撃に怖気づいて手も足もでない。
それを一見で打ち返せる鉢屋は、妙の一言に尽きる。
「人をよー見る奴やねん。人がみいひんようなとこまできっちり」
「で、プレイスタイルがオールラウンダー?くせ者にも程があるやろ」
「そのくせ者具合があるからうちでやって行けてるんちゃうか、跡部のお気に入りやし」
「げえ、余計俺当たりたないわ」
悪態をついて湧き上がる衝動を落ち着けるように座り込む。
フェンスの向こうで繰り広げられる試合は、圧倒的な七松先輩ペースであるにも関わらず気を抜けばすぐにでも巻き返してきそうな鉢屋の雰囲気がまたぞくりと背を駆けあがる。
がしゃんと音をたてて体を反転させて試合に背を向けたと同時に、頭上から侑士の感嘆の溜息が煽ってくるのを必死に堪えた。
なんて楽しい試合だろう。
あの試合をしているどちらかと今すぐに対峙してみたい。
自分の未熟さを再確認する程の惨敗を期したとしても、それを喜んで受け入れる程コートに立ちたいと思わせる彼らは何なのだろうか。
口からこぼれ落ちる。ああ、おっかないという否定の言葉に真実味もない。
「謙也ー、次やで。準備できとんのか」
「まじでか!アップしてへん!」
我が校の部長の声が耳に届き慌てて立ち上がる。
ザラリと足の裏でシューズと砂がこすれた音を鳴らし、軽い柔軟をその場でこなした。
「お、やっぱり強いなあ、そっちのセンパイさん」
高らかなホイッスルの音と共に聞こえてきた楽しげな侑士の声で、決着がついたことを知り同時に図らずも表情が緩みほくそ笑んだ。
「当たり前やろ、うちのOBなめんな」
さあ、自分の試合も精一杯楽しみに行こうではないか。
20130123
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