過去今瞬間


綺麗にそろったありがとうございました。の掛け声で整列した全員が頭を下げる。
あっという間、目まぐるしく移り変わり忙しい毎日の中で今まで生きてきた中で一番充実していた一週間だったと思う。

「一週間お疲れ様でした、鉢屋くん」

「池内さんもお疲れ様」

氷帝を担当のコートに割り当てられたときは、私でいいのだろうかという不安と彼の姿をずっと見ていられる事に複雑な心境ながら歓喜した。
一週間、この一週間だけは誰よりも彼を見ていられた女の子は、私しかいないのだ。
この一週間のおかげでこうやっていの一番に声をかけられるくらいには、以前よりも仲良くなれた、と思っている。
少しでも進展できたそれだけで今回の合宿のお手伝いは役得と言って過言ではない。
毎年毎回手伝いを続けていてよかったと、自分に過去に賛美を届けたいぐらいだ。
各々が自分の荷物を手に取り、バスに乗り込む。
練習試合の結果は、各担当のつけたスコアを榊先生が集計して後程各校に配られることになっているが、大体がそれぞれの会話で把握もできた。
勝率は五分五分、そう侑士が苦く笑っていたのをみて今年最後の試合は荒れるだろうなと萩くんが冷静に溜息をこぼす。
そんな大事な公式の試合の場に、私は行けない。
正式な部員でない私は、合宿などの非公式なものには公欠で参加できても県大会などの大きな試合にはただのギャラリーとしてのみでしか参加は許されていない。
春本さんだけが、その試合を間近で見ていられる。
私はほんの少し、過去の自分が委員会を選択したことを後悔した。

「大丈夫です。また、作兵衛を連れて会いに行きますから」

来たときと同じ席に腰を下ろしていれば、バスの外から春本さんの困ったような声が聞こえてきた。
どうやら知り合いだったらしい四天宝寺の方と何かを話しているようだが詳細はあまり詳しくは聞き取れない。
ただの、再会の約束だろうそれをBGMに半分無意識に多分気になってしまったのだろう彼の方へと視線を向けた。
座席の影になってはっきりとは見えないが、細く切れ長になった視線をじっと窓の外にやり小さく唇が数度動いたような気がする。
視線の先は言わずもながら春本さんの方で、しかし少しばかりずれているようにも感じ、きゅっと縮こまる心臓の感覚に思わず顔を伏せた。
隣から亮の少し慌てた様な声が聞こえたので、なんでもない!とその場しのぎの虚勢を貼りつけた。
少しして、バスに入ってきた春本さんに「一週間お疲れ様」と声をかければ「いつもありがとうございます」なんて返されしまう。
その当然の様な優しい言葉がスッと胸に降りてきて、少しだけ彼女の事が嫌いになった。


20130413

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