欠落した長


じんわりと、立っているだけで汗が染みだしてくる。
此処数日はいい天気だったからね、と外に向かって窓辺のベッドに腰掛けて彼はくすり口角を上げた。
いらないのか?とコンビニで買ってきたブドウとミカンのゼリーを差し出せば、凍らしておいてほしかったなどと文句をいってくる。
極端に冷たすぎるものは口にできないくせにと悪態をつこうにもそれは唇を動かす動作にすらならない。
彼の肌には一滴の汗もにじんではおらず、自分とはまったくと言っていいほど対照的に白い肌は日にあたれば多少なりとも健康的に見えた。

「昨日、外に出たんだろ?」

「うん。夕方にね。帰りに寄るかなーってちょっと思ったから」

「生憎東京に帰ってきたのは夜中だ」

そりゃ無理だ。
けらけらと室内に響く声は軽やかで、調子がいいのだろう、ぶらぶらと揺れる足のテンポも実にいい。
ふと目線を簡易冷蔵庫の前に落としてみれば小さなカバンが二つ寄り添う様に置かれていた。

「二人も来てるのか?」

「うん、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな?二人で選んだ花を花瓶に入れにいってくれたんだ」

「それはきっといい匂いのやつだろうな」

「二人は鼻がいいからねえ」

そんな会話をしていればぱたぱたと複数のスリッパの音がこちらに向かってかけてくる音が耳に届いた。
小さくほらねと聞こえたが、窓から入ってきた風が耳をかすめたおかげであまりはっきりとは聞こえず聞き直そうにもすぐにドアを開けて入ってきた小さな顔がずいずいとこちらに向かってやってくる。
せんぱい随分と日焼けされましたね。
せんぱい見てください!
二人なはずが矢次に飛び出てくる言葉に回答もせずに耳に口を寄せt綺麗だなあと質素な白い花瓶に飾られた名も知らぬ花に向けての感想を述べれば、照れくさそうにする二人は実に純朴である。

「庄左エ門、彦四郎、此処は病院なんだから少し静かにしよう」

二人に向かってはっきりとした口調で言えば、そうでした。と庄左エ門が小さく頷き彦四郎が両手で自分の口をおさえてみせる。
庄左エ門が彦四郎の手を取って小さなパイプ椅子に座らせ、自分も花瓶を置いてからその隣に座って見せれば丁度自分のいる位置から二人の間に花が見えて随分とかわいらしい状況になっていた。
少し噴き出して笑ってしまいそうになるのをこらえて、二人の頭をぐしゃぐしゃとなでくってやれば嫌がりはしないのだから気分がいい。
二人がせっせと髪を直しているのを見つつ壁際の時計に目をむけてから、此処から東京の家までの距離を考えてももうそろそろ出るべきだろうと気づき首を撫でた。
鞄を持ちなおせば、窓側に向いていた顔がこちらに向き直って少しだけ首をかしげて見せる。

「じゃあ、また来るよ。勘右ヱ門」

「もうそんな時間か。またきておくれよ、三郎。今度は、何か土産話がほしいところだ」

扉を出ていく間際、期待しないでほしいという懐かしい矢羽音は、きっと中にいる三人にはっきりと伝わっただろう。


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220130521

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