新、ニュー
私のさっきの言葉は友達との会話でむりやりに提示した嘘でなく本心から出た決意であり本気だ。
しかしながら、隣からせわしなく話しかけてくる友達をあしらいながら、私は先程の自分に少しだけ驚いていた。
あれは、自分でも知らなかった自分の隠れた本性なのかもしれない。
聞かれてしまったことに対して恥ずかしがると自分の思っていた反応とは違い、目の前に春本さんが見えた瞬間の私は恥ずかしいどころかこれを好機だと思っていた。
普段から、テニス部を見続けサポートをする彼女だからこそ私が鉢屋くんの事が好きなことなどもしかしたら私が自覚するよりも早く感じ取っていたかもしれない。
その彼女へ、私はまるでお前など敵ではないとでも言いたげに聞かれた事など気にも留めないという反応を返した。
私にとって、これは新しい自分の誕生に他ならない。
新しい、敵を作っても彼の側に立ちたいと考える私。
「お、池内さんは今帰り?」
ふてくされてしまった友達を連れて玄関ホールを出れば、片手に明らかにまだ眠っているのだろう慈郎を引きずっている鉢屋くんが現れた。
唐突すぎる回廊に少しどもりつつも、そうだよ!と返せば気を付けてと優しく柔らかい彼特有の笑みが向けられる。
さっきまでの自分の中の殺伐とした感覚が一気に軽くなり、へらへらと緩んでしまった頬を軽くつねりながらコートの方に向かう鉢屋くんの背を見送った。
私はこんなにも彼に恋してる。
そう、改めて自覚するにはとても簡単な数十秒。
「なんか、見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい香澄が鉢屋くんの事好きなのが今わかったわ」
「そう、かな?」
「で、ライバル視してるのがあの男テニマネなんて。ライバルにもなんないじゃん」
「…なら、いいんだけど」
友達は、春本さんの事を意識したことが無いのだろう。
苦く崩した返答を返しながら、校門まで人通りの減った道を歩む。
少し傾いてきた太陽を背にして、陸上部が外周から帰ってきたのだろう姿が見えて少し進行方向をずらした。
陸上部に紛れどこかの制服だろうブレザー姿の男の子が、学園の中に向かって歩いて行くのが見えて見学か何かかと無意識に顔を確認しようと視線を泳がせた。
ふんわりとした黒髪に、大きな目と長い睫。
その細身の体もあってか一瞬女の子かと見まごうその人は、校舎中へとまっすぐに消えていった。
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20130530
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