ぶつぶつに
秀才。という文字が実に似合う人だと思った。
同時に、うまく何かを隠してる人だとも思った。
「いや、国籍は日本なんだ」
夏休みに入る手前。
急に入ってきた転入生は、一つ年上の帰国子女。
三年ではすぐに受験や進学といったものに当たる為、意図的に二年への編入をしたらしいのだが、学歴は実質高校入学レベルとの事。
今まさに特有の質問を諸々受けているわけだが、そつなく対応する様は実に日本人らしい丁寧さがある。
ふわりとした黒髪に女子の様な大きい目と長い睫のおかげでか、眉目秀麗という言葉そのまま思える。
しかしながら、鍛えているのかしっかりとした体つきが男らしさを垣間見えさせた。
何故こんな時期に?という質問には、父の会社の都合でねという当たり障りのない返答が返され無理やりにでも納得させるうつもりなようだ。
「なあ、君が日吉くん?」
唐突に編入生に声をかけられる、どこから自分の名前を知ったのか、愛想のよい笑みを向けながらそこに立つ転入生が返答の無いままのであるにもかかわらずそのまま言葉は続けられる。
「君がテニス部だって聞いて。俺、テニス部入りたくってさ。ぜひ、放課後連れて行ってもらいたいんだ」
「まあ、いいですけど」
敬語なんていいのにと続けながら貼りつけたような笑みに理由もなく少し背骨がぞくりとした。
放課後になってもどこかぞわぞわとする転入生からの雰囲気に一歩先に足を進めてしまう。
テニスコートまで行けば部活に集中できる。この、なんとも言えない空気から逃れられる。どこかそんな鬼ごとをしている感覚にかられ、いつもよりもまだ集まりの悪いコートまで逃げ込んだ。
自分の足音だけが妙に耳に残り、すでに到着していた跡部部長の元にまっすぐ近寄ってみる。
「部長」
「ん?」
「ちょっと見学したいって、うちのクラスに入った転入生が…そこに」
「…ああ、わかった」
読んでいた海外のテニス雑誌だろう、自分には少しなじみのない文字列のソレを樺地に投げ渡し、部長はするりとコート外で待っているだろう転入生の側に近づくのを横目でじっと見据えた。
「…っ」
跡部部長と転入生の対峙の瞬間。
先程までのぞくぞく感が気のせいではないと悟る。
腕に走った気持ち悪いほどの鳥肌と、より一層深くなる転入生の笑みがそうさせるのだろう。
ぽんと樺地が何かを察してかゆるく俺の背中を叩いた。
「俺、あいつなんか苦手だ」
口に出して一瞬、転入生がこちらを見た気がした。
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20130928
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