己の正義を


あ、見たことある。そう思ったのは、タオルの洗濯を終えてドリンクボトルをコート内に運んできた時だった。
合宿の日からさして日常には支障もなく、ただ池内さんに揺さぶられた気持ちだけが二人の接触している瞬間に時たまぐらりと大きく動くのみ、そんな中のこ再会は少しばかり私はドウヨウというものをした。

「そんな事ないわよ」

「いいえ!」

「落ち着きなさいな、ユキ?トモミ?私のような特異な者を好むのは三郎くらいなもんさね」

「なんであの熱視線がわからないんですか?!」

「あっちもあっちで、まどろっこしい!」

まあまあとなだめるのは、少し大人びた直属の後輩で、それも女子らしく学業に恋になにもかも私よりも格段に整えていた。
桃色の装束は、私よりもくたびれていない。
まだ色も学ばぬその姿は、当時から実にまぶしかった。
同時、二人の話す熱視線の主に関しては、くのいちとなるべくして学んでいるのだ。
感情や胸の内をくすぶらせ、見えな糸でこちらへこちらへと手繰り寄せるのがくのいち。
そんなもの、わからいでか

「覚えてる、かな?久々知です」

「…」

「その様子だと覚えてるみたいで、よかった」

「え、ああ」

腰を曲げてその人に軽く頭を下げる。
手元から一本ボトルがこぼれ落ちそうになるのを寸前でとどめ、目線を下げたままボトルをベンチに置いて前髪を撫でた。
あの大きな目は、実に怖い。
なんでも見透かされてしまいそうで、なんでも知っているのだと言われているようで、もっともっと自分を押し込めようと前髪を撫でた。

「知ってるよ」

さっと血の気が足元へと一瞬にして引いた気がした。

「春本さんが、あの頃の俺の気持ちを知ってて事も、死んだ理由も死んだ場所も、今、」

隣に並んでいるだけで距離も1m程ある、のに、耳の側でささやかれている様に声はストンと中心に落ちてくる。
目の前では、いつも何ら変わらぬ風景が過ぎ、彼もこちらをちらりとも見ずにボールをポンポンとラケットで弾ませていた。
反応も、何も、ない。

「多分、誰よりも皆の現状を理解しているのは俺だから」

少し、声が揺らぎ目線をそちらえと上げてみれば、大きな目が細く狭まりまっすぐに何かを捉えているのがわかった。

「きっと、きっかけって俺の事なんだ」

その言葉が本当なのだと、何のきっかけであるかも理解できていないのにも関わらず、きりりと胸が痛んだ。


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20131030

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