現で、虚構
「おい、」
今日、どうやらこのクラスに転校生が来る様だ。
私の斜め後ろのもう一つ後ろに追加された真新しい机と椅子は、今は現在誰のものでもない。
中途半端だなと怪しむのは、三年の初夏という微妙な時期のせいだろう。
かけられた声へと顔を向ければ跡部が私に一枚のプリントを差し出しているところで、すみませんと小さく呟いて受け取る。
プリントの内容に対して説明は無い。
そのまま踵を返して自分の席に戻る跡部は、足を組んでちらり自分の隣にある空席に視線を向けていた。
いつもの事なのでさして気にしないが、跡部からという事は部活関係で間違いないだろう。
プリントの冒頭には、夏期合同合宿についてとどうもよからぬ計画がたっているようだ。
軽いため息を吐きつつ、何か変わった事は無いだろうと視線は文字を追う。
「おはよう、景吾っ」
「香澄どうした?」
声だけでわかる鈴を転がしたような可愛らしい女性の声に、周囲はざわつき始める。
彼女は、私の輪廻に新しく加わった異物だった。
「侑士がね。今度合宿あるって言うから、私にも手伝わせてもらおうと思って」
「優しいじゃねえか、俺様の為。ならいいぜ?」
「あはは、テニス部の為!」
和気あいあいとされるその会話に、最初からプリントされているメンバーの名前に彼女は私より先に印字される形であった事を確かめる。
彼女は、きっとどこぞの姫の生まれ変わりなのだろう。
誰からも愛され、誰からも必要とされる彼女は、誰が見ても羨ましい立場の存在であった。
憎々しいわけではない、むしろ彼女はこんな無愛想な私にも笑いかけて同時にマネージャーでも無いのに共に仕事をこなしてくれる優しい人。
刻限となり耳に通る予鈴によって彼女も自分の教室に帰っていく。
彼女が帰ってしまえば、次は間もなく顔を見せる転校生へと会話の中心は移動する。
ホームルーム前の独特の気の抜けた空気を打ち破るように教室のドアが開き現れた教員は、ちらりと後ろを気にしてドアを開け放ったまま教台に立つ。
入り口付近のクラスメートは、どうやら既に転校生の顔が見えているらしく後ろの席とこそこそと会話をしていた。
「えー、今日はホームルームの前に転校生を紹介する」
入れ、とドアに向かって声がかけられた。
先ほどとは違うざわつきに、窓の外に向けていた視線をドアへと向ける。
ふわりとした柿色の髪と少し気怠げな表情。。
整ったその姿に教室は花が咲いた様に色めき立つ。
「鉢屋三郎、です。よろしく」
私は期待し始めた心を押し込めて最近切ってしまったばかりの前髪をかいて顔を隠しそっぽを向いた。
もう、偶然なんて信じない。
きっと彼も彼じゃない。
そんな夢は、みてたまるものかと唇に歯をたて零れ出る涙を呑み込んだ。
next
20120606
- 7 -
*前次#
ページ:
ALICE+