もう一人のペテン師


「佳奈と別れても勝てんとか…ほんま」

ミヤに向かって暴言に似た言葉を吐き出すなまえを側に置きながら、ぽんぽんと背中を叩いてやる。
その体はひくひくと小刻みに振えている。
部員の誰よりも泣いているそれは、三年間共に歩んできたマネージャーという存在である。
工業高校であるが故にほとんど女子生徒がいない中で、佳奈となまえは特に仲が良かった。
だからこそ、別れをきりだされて泣く友人と、勝利を目指すサポートしている部の間でなまえは一人で悩み続けた。
それを、ただ、側で見ていた。

「イビ、黙らせ…」

「こういう時は泣かせたるもんじゃ」

「いびくん頼んなぼけ。負け犬」

「もう、ええ。わしは負け犬じゃ」

汗と涙でぼろぼろになった顔を手で覆いながら、テントに去っていくミヤの後姿。
ぼけと繰り返し呟くなまえは、顔を伏せたまま小さなか細い声で悔しいとつづけた。

「私…なんもできひんかった…」

「何を言うとる」

「佳奈にちゃんと見てきて言われたのに…追い抜かれてからのみんな…見てられへんかった」

ぐずぐずと、鼻をすする音と息を吸い込む呼吸の様が聞こえる。

「見んでええ」

「最後じゃ、見とかなあかん」

「わしは、負け戦なぞなまえに見られて嬉しない」

勝てたら言おうと思っていたが、負けてしまった今じゃ言うにもいえない。
ミヤの目の前で告白でもして玉砕なりなんなりできたらすっきり卒業もできたんじゃなかろうかと思うが、そう簡単な話でもない。
わしは、いつもなまえの隣で見ていた。

「ミヤの高校最後のレースじゃったのに」

ミヤと佳奈が付き合ったのを一番喜び一番悲しんだのがなまえ。
ミヤと佳奈が分かれて一番悲しみ一番安堵したのはなまえ。
どちらの顔もきっと隣でただ見ていただけの自分しか知らない。
隣でずっと傍観者を貫き、時たま優しい言葉をかけたりとしていた性格の悪い自分。

「わしの最後のレースでもあるんじゃけどな」

そんな事言いたいわけではないのに
また優しく彼女を騙して自分も騙す。


end
20140304
20140305修正

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