ころん、生まれ落ちた環境は文明の進んだ先の世である。
生まれは、鉢屋という名の家の末息子。
名を「雷太」と名付けられ平凡で幸せな生活を送っていた、のもわずか二年。
「新しい名をやろう、三郎」
2つになったばかりの時、愉快犯か何かのつまらない衝動で家に火が放たれ家族が皆焼け死んだ。
其処で運良く生き残った私を拾い、名を与えた人の顔を私は今も知らない。
何故か、鉢屋雷太はあの火事で死にもう生きていてはいけないと物心ついてからやっと聞き出した事柄。
そして、与えられた鉢屋三郎の名。
父親の名前も母親の名前も顔も声も記憶に無いにも関わらずそれよりもはるか昔の記憶が呼び戻されたのは、その時だった。
「…っ皮肉なもんだ」
片割れをもじった名か、と両親につけられた二文字を指でなぞる。
鏡を見れば、その名に恥じぬ同じ顔が頬に涙の筋を残したまま苦く表情を歪めた。
元の顔を薄ぼんやりと思い浮かべ、拭い去る様に頭を振る。
あれはもう過去だ、弱く愛しい者すら守れなかった悔やまれる過去なのだと振り払う。
私を拾った人間は、私の前に素顔を出す事はなかった。
いつも体中を包帯で纏い、顔に薄い布を垂らした頭巾で髪一本も素肌も見えない。
ただ、凛とした涼やかな男声で三郎。三郎。と呼び繰り返して、ふわりと息で布を揺らす。
優しくも厳しくもない。養父というよりも飼い主に近いアレは、名すら名乗らずただクッと声上げぬ喉を鳴らして笑う。
「なあ…三郎。人を殺すのには指一本でいい、な?お前ならすぐ慣れる」
この世では、刀の流通が減った分変わりの火縄の発達が著しい。
照準も、軽さも、大きさも
改良されたせいか火をわざわざ焚く事も持ち運びが目立つ事もない。
ただ腕一本指一本片目があれば命など軽く奪い取れる。
「なあ、アンタはなんで私を拾ったんだ?」
「理由を聞きたいのかい?ただの暇つぶし以外に何もないんだが」
「じゃあ何故こんな依頼やらなきゃいけない」
「タダ飯なんかやる程私は優しくないって事さ」
「金持ちの道楽で人殺しか」
「無駄な正義など捨ててしまいなさい。感情など、あればつらいだけだろうよ」
それはどこか、前世の忍として人を殺める務めを果たす前に言われた言葉に似ていた。
ふうん、と渡されたリヴォルヴァー式の小型銃は簡単に服の袖に収まり暗器に近い。
指先で撫でれば、本当にこれから熱が放たれるのか?と疑いたくなるほどに冷たくつるつるとしていて、さわり心地はよいとは言いにくい。
「お前を拾って良かった。本当によく使える。前の二人はすぐ自決してしまったからなぁ。やはり幼い時からそばに置いたのが幸をそうしたか」
依頼の合間に友を探し、彼女を探す。
養父に言われた言葉に否定はせずただ肯定だけを繰り返し受け入れる。
もはや懐かしい草という呼び名がしっくりときてしまう。
記憶が戻ってからじわりじわりと過去に体感した動作を再度身につけた。
走る、跳ぶ、潜む、真似る。
やはり真似る事に関しては自然と周りに居た同業者からも一目置かれ南米のカメレオンという生き物に例えられた事もある。
「ハズレ」
黄ばんだ紙に書かれたみょうじなまえという文字に期待を込めていたが、追加情報で私の描いた似顔絵とはまったく似ても似つかないという報告が飛び込んできた。
これで何人目だろう。
友人らの顔も描いて、依頼を回してもらいにきた同業者に見せて回ったがハズレばかりでやる気も失せてくる。
見つからない事が当たり前なのだと考え直すべきか。
輪廻転生の仕組みなどただのヒトである自分に理解できるわけもなく、最初はいるかもしれないと期待だけを抱いていたはずが今はどこかに居るのだと確信さえ持ちかけていた。
「さあ三郎。依頼だ」
「はい」
部屋の隙間に差し込まれた封筒を手に取り、ため息を吐き出す。
彼女の名にかぶせる様に封筒から依頼状を取り出して広げる。
今日も今日とて、人を消しつつ友を探す。
end
20120905
明治鉢屋詳細でした。
以下補足とか
養父さんのイメージとしては雑渡さんとBSRの大谷さんみたいな人をイメージしています。
拾い子に危ない仕事をさせて自分が生活をするような方なので、キャラクターの転生ではありません。
三郎はその拾い子の三番目(以下反転で上二人詳細と三郎裏話)
一人目は十の男の子でしたが十分に自我と意思が育った状態だったので自ら命を落とし、二人目は十三の女の子。色事をさせていましたが子を孕みその子ごと池に入水(一人目が太郎、二人目がつげ)
なら小さい時からやらせれば死なないんじゃないか思った養父がと三郎を誘拐します。放火じゃなく、養父自ら火をつけました。
※上記反転内容が見られない方、詳細に把握をご希望の方はこちらに掲載しております。
三郎は、記憶が戻ってから忍として鍛錬をし実力を取り戻します。
裏の通り名とか考えたかったんですが、私のセンスが光ってはくれませんでした。
書いていて、三郎になんて重苦しい過去重ねさせたんだろう私と思いました。
Thanks request ずぅ様![
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