A beautiful thing
私は、自分がお荷物であることは重々承知していた。
あまりこの時代で目立つようなことがあってはならないと昨晩小十郎さんに懇々と告げられたばかりだ。
あのお説教に似たものから時間にして十時間と三十二分十秒の私の視界にあたるカメラから見えるのはびゅんびゅんと過ぎていく木々や草花らしき自然豊かなはずの景色である。
さわやかな澄み切った空気に、木漏れ日の中を駆け抜ける馬の足音は、まるで映画のワンシーンのように気高く、美しい。
それを記録メディアいっぱいに感じられる此処をなんと言うだろう。
人ならばこのような場所でこの感覚についてすぐに抗議も抵抗もできたであろうが、まあ、私には到底成すすべも何もない。
地球という名の大地がすぐそばにあった。
おかしい、と思う。
小十郎さんの語り口からして公に私を持ち運ぶ事はしないだろう、おそらく麻袋か何かに入れて荷の一部として輸送されるのだと思っていたのだが、現状。明らかに麻袋の様子はなく、ミシリと体に巻きつけられた紐が鳴る。
「おや、おや?」
これは、大っぴらに運ばれている。
丸裸のまま紐で政宗さんの乗る馬の背にしばりつけられ、落ちぬようにしかし喜多さんの装飾は崩れぬようにという絶妙な力加減。
否、おかしいだろう。
これがこちらの常識かとも思ったが、出立の前に政宗さんの口からドンウォーリーなどという言葉から察するに強行で私は此処に場所が固定されたのだろう。
「すまん」
後方から、小十郎さんの小さいのにはっきりとした音声が受け取れる。
ええ、これがヒトの言う諦めという感情なのでしょう。
覚えたくなかったとうな、覚えたかったような、よく小十郎さんが政宗さんに向かって浮かべる表情がこれだったのかと納得してしまう。
カメラを広角にして後方の小十郎さんを見れば呆れ顔が未だに張り付いており、聞こえてくる政宗さんの私に対してだろう気持ちいいだろう!というセリフには答えかねない。
何せ触感は私には皆無だ。
風など到底感じられずただ表現方法として先程のびゅんびゅんを使用したに過ぎない。
マイクの掠れる音、それだけしかデータは入ってきていない。
「今日行けるとこまではnon stopでいくぜ。酔って吐くなよアイ!」
「吐く器官がありません」
「ah?なんだって?」
「No!problem!」
オーケィとかすかに聞こえ、出せない溜息を噴く。
出立して休むことなくすでに夜。
早馬の名馬ですら疲労も溜まりスピードは落ちていた。
「政宗様、甲斐と越後の狭間故、ご油断召されるな」
「なに、通り過ぎるだけだ。どっちも気付きゃしねえよ」
しかし、ちと嫌な予感がする。
そう政宗さんが呟くや否や、上部からずどんと何か黒くて大きなものが落下していきた。
それを人であると判断するまでに数秒、それが奥州から引き連れてきていた黒脛巾組の一人である事に気づくまで一瞬、政宗さんが刀を抜いて馬から飛び降りたのがそのすぐ後だった。
「気付いちゃうんだよねえ。ほら、俺様よくできた忍だから」
大きな手裏剣の名前は、風魔手裏剣だとかそういうとても恰好のいいものだったと記録している。
もわりとその体から漏れ出ているのは、なんだろうか。
ふわっと、それこそ羽根でもはえているかのように降り立ったその姿は、一瞬森に紛れたもののオレンジの鮮やかな色が認識をはっきりとさせた。
「ちょっと、通り過ぎるだけだぜ?」
「それを信じる馬鹿がどこにいるってのさ」
「テメエ」
「馬鹿にしてくれちゃって」
飄々と、この表現にぴたりとハマるこの態度は、けんか腰とみても相違ないだろう。
ぎらりと政宗さんの刀が光り、小十郎さんからも刀に手をかけた音がした。
「なんでこんな少人数で休みもせずに移動してんのか、教えてもらえたら通してやらないこともない」
「言ってやる義理もねえ」
「通してあげる優しさもこっちは持ち合わせちゃいないもんでね」
喰えねえ猿だ。と政宗さんが呟いたのをきっかけに、双方の足が地を蹴る。
甲高い金属の接触音のあとは、ざっと飛び退く足音が三つ。
新たな存在が間に割って入り込みぎろりと双方を睨みあげた。
黒い衣装に金糸の絹のような髪を振りまくその姿に、私は無意識にカシャリとワンショットだけシャッターとおろした。
「貴様らこの地に何の用があって踏み込んだ!此処は謙信様がお守りする越後の地、荒らし通る者は私が許さない」
二人の相反するオレンジと金は鮮やかに闇で主張した
。
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20131011
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