▼この目の黒いうち

あの毒にしか特徴も脅威もない小さな竜が先日の右舷の月の日に生贄を手に入れたと噂で見た。
妖怪と人間がまとめる中で生贄というのはいろいろな意味がある。
食料・嫁・おもちゃ・下女エトセトラエトセトラ。
性欲処理も考えられるらしいが、わざわざ人型を維持してまで女とまぐわいたいと自分は思わないし、他もめったにそんな考えは浮かばない。
今回の理由はなんだろうねえ、と隣にいる骨に問いかければ、興味ないとそっぽを向かれてしまった。
あの屋敷はとてもいいところに建っている。
人間の住処からも適度に遠く。
妖怪の住処からも適度に遠い。
たった三匹の妖怪だけで住むには広すぎるその家は、いろんな界隈の妖怪から欲しい欲しいとねだられている。
しかし、そこの主はがんとして邪な感情をもった他を招き入れる事を許可しなかった。
まあ、他の二匹も何かを簡単に懐にいれる事をしなかったせいもあるのだろうが、今回の件。いささか不思議なこともあるものだ。

「あそこの青色は優しいから、きっと僕たちが一緒に住みたいっていいえば混ぜてもらえるよ」

「…何言ってんの。此処から離れる気なんてないくせに」

「それは一松兄さんもでしょ」

俺は、別に、
そんな声が聞こえてきたが、すっと手のひらに意識を向けた。
ぎょろりと動く自分の目玉を舌先のざらつきで軽くなめとり、潤ったそれをあちらに飛ばしてほくそ笑んだ。
別にあちらがうらやましいわけじゃない。
今の生活には十分満足しているし、自由もある。
それでもあそこに興味があるのは、人間がいるからという理由だけだ。
あそこはここよりあったかくてぬるくて容易いから、簡単に見張れてしまうし、ほら、僕は見たくてたまらないから。

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20160603

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