▼侵食する

あいつだってバカではないのだから毎夜毎夜、気づいていないだなんて思ってはいないだろうけれど。
これのなにがいいのなんて今もあの時も聞くことすらしないけれど、と、胸元に抱き寄せた出会った当初よりも体温の下がったそれの頭を軽く撫でた。
まるで人間の髪の毛がじわりじわりと白髪になっていくかの様に、僕とは違った色が見えてきたそれに愛着がわいていることは否定しない。
ただ純粋に仲間が欲しかった。
贄の順など別に守っているやつなんてほとんどいなかったけれど、今年のこの時にささげられる贄は自分のものであると意識していたし、どこか達観して、素直についてくるこれをあれが欲していたことなど。

「兄さん知ってたでしょ」

なんの事だと聞く前に早朝の狩りに行く十四松が枕元からのぞき込んでくる。
にんまりと口角のあがる口は、唾液が落ちてこない様にとじられていて、ぎょろりと目玉だけがこちらを見ていた。

「奈緒が起きちゃうよ」

「わかった」

「…十四松」

「あい」

し、とこの体になじんでからいつの間にやら二股に分かれた舌で唇をなめて指を添える。
何をと指示するわけでもなく黙っていなさいと、これに聞こえてはいけないと、目を細めた。

「あいつに見せびらかすのはいいけど、気づかれるなよ」

宵闇に紛れる赤い髪の毛は、僕がなりたかった色で。
その黒い大きな羽根を羽ばたかされてしまったら、どうにも追いかけることはできない存在で。
それが唯一欲しがっているこれを、今俺は懐に持っていて。

うらやましいだろう、これは俺の。

十四松がすんと鼻を鳴らし、少し奈緒が身じろいだ。
かわいい、かわいい俺の仲間。
まるで気分は、子を持つにんげんの母親。
ゆっくりなじむ自分と同じで違う色に、こくりと喉の奥が脈打った。

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20160609

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