▼ひとをすてる

食事の時間が前よりも賑やかになった。
それと私の体に目に見えて変化が現れたのはカラ松が帰ってきて2か月後で、チョロ松と同じように舌の先が割れてきたことと手足の冷たさが酷くなってきたことでわかった。

「奈緒がなった生贄は、人間の中から俺たちの仲間を増やすことだ」

くいっと昼間から酒をあおるカラ松の説明を聞きながら、この間の反物をチョロ松用の羽織にしていく。
私の伸びた髪の毛を竹でできた櫛でとかしながら、何も言わないチョロ松はときおり椿油をさしてと丁寧な手元を止めない。

「主従関係からはじまる事が多い。基本的な契約は、お互いの名を伝え合い床を共にすることでその繋がりは太く濃厚になり妖怪化も早い。よく伝承にある肉やら血やらを食う方法や契りによるものも無くはないが、うちじゃその方法をやりたがるやつはいない」

なぜかと言われたら、まずいしもろくてすぐ死ぬからな。人間は

人懐っこい笑みを浮かべたカラ松はそのままチョロ松に進捗を尋ねる。
唐突にこの話題になったわけではなく、間も無く半年という区切りが迫り、仏滅の今日だからこそ私は正式に人間でなくなる為の儀式に身を投じる事になった。
普通よりも格段に速く半年で腰ほどまで伸びた髪は、チョロ松の手によって艶やかに手触りもよくなった。

「きっと奈緒は、ちゃんとした七歩蛇になれるよ。僕には、その色はでなかったからね」

その髪は、チョロ松の様な落ち着いた湿地の苔色では無く、瘡蓋に似た赤黒く時折光で金色に見える。
外から、十四松のできたよ!という声が耳に届けば、先に歩みを進めるカラ松の後ろでチョロ松に手を引かれて家の外へ出た。
早朝の霧がかった新緑は、いままでで一番此処を神に近い場所の様に思わせて、いつも蕨がとれる見慣れた景色すらガラリと雰囲気を変える。
軽く握られたチョロ松の手を、はじめて暖かいと感じた。

next
20160622


- 21 / 34 -
▼back / top / bkm / ▲next

ALICE+