▼胃痛
また、あのむつごが。
と、働き盛りの教師が1人ぼそりと呟いた。
彼は、若くして教頭という立場と生徒会の顧問をする信頼のおける人物であるが、あまりに親や役所の人間からの評価を気にしすぎる気質でもある。
ガリガリと爪先を噛む癖も玉に瑕であったが、生徒会室の窓から外を眺めながらの言葉には見なくともわかる。
また、あいつらの誰かが何かをしたのだ。
「先生、煩いから職員室帰っていいですよ」
「いやザンス」
つんと言い放ち、特別に用意された専用の、しかし安物だろう革張りのソファに腰を下ろす教頭の手元には、一年生が今度行く課外授業のプラン案が広げられていた。
一年がここにいないからと、仕事を生徒会室に持ってこられるのは、やめていただきたい。
と、口に出したとてまるで子供のように駄々をこねるのだろう。
あつしくんが、会長、と自分のスマートフォンの画面を私に向けながら差し出してきたのは、教頭が放送で職員室に呼び出されてすぐだった。
「俺の友達がごめんね?」
悪びれもしない声色のその言葉とは裏腹に、画面に表示された写真に写る校舎裏にひっそりと置かれているはずの二ノ宮金次郎像が足からぼっきり折れて地面に投げ出された無残な姿に私は、軽く頭をかかえる。
松野の六つ子がこの学校に入学して三年目。
私がこの学校の生徒会長になって半月、任期はあと少し。
このたったの数ヶ月で六つ子がやらかしてくれた事を六つ子の末弟と仲が良いのだというあつしくんは、副会長という立場で二年目。
たった数ヶ月で胃に穴があきそうな私は、教頭と同じことを口にするのだ。
「また…あの、むつご…」
ああもう。めんどくさい。
next
20160629
- 25 / 34 -
▼back / top / bkm / ▲next
ALICE+