▼謝罪

生徒会長が暴力沙汰。
そんな事あっていいわけがない。
裏番長なんて実際あるわけもないし、それが表の生徒代表者に与える影響など微々たるものである。

「喧嘩ならばどうぞ校外でお願いします」

くっきりと見えるだろう眉間に寄ったしわと、不機嫌を形にしたような目線を男三人に向けながらちらりと四男を見た。
私と同じ機種だろう携帯のモニター画面に光がともってる辺り、誰かしらに連絡をとろうとしていた矢先だったのだろう。
なんてタイミングの悪い事だ。
ようやく懐いてくれたトラ猫に店員さんに聞いて買った猫缶をあげようと思っていただけなのに、親にも許可をもらったからうちで飼おうと思うのだと四男に伝えようと思っていただけなのに。
なんだか悔しくなっていたら、四男が引きつった声で私をバカと呼んだ。
その声に反応するよりも先にじゃりと男のどれかがこちらに一歩近づいたのが分かり、猫に向けていた視線を持ち上げる。
にたりと笑ったその表情から、危機感や見つかってしまったなどという焦りは一切見られない。

「黙っててくれたらいいんじゃん?」

「校内だと誰がみているかわからないでしょう」

「黙らせればいいじゃん」

「だから校内で暴力沙汰は…ッ」

押し問答がヒートアップしそうになる手前。私が荒げようとした言葉の途中で唐突に誰かに遮られた。
力いっぱい引き寄せられた上にぐっと真っ暗い服の方に顔を押し付けられ、息が詰まる。
頭を押し付けられているせいで一切目の前に見えることもなく、自分の吐き出した二酸化炭素を何度も吸い込んだ。
私を抑え込む誰かは何もしゃべらないのに、後ろで四男の声と男たちの声と時折トラ猫のか細い鳴き声が耳に届く。
四男が、兄さんと言ったような気がしたけれど、足りなくなってきた酸素を求めて思考があまり働かない。
やたらと動く体がようやく落ち着いて少し、緩められた力によって、視界いっぱいに広がった赤色が目に飛び込んだ。
ひゅん、といっきに入り込んできた酸素で体中に血がめぐっていくのがわかりぷつりと途絶えかけた私の耳に、泣き出しそうな、あまり聞き覚えのない声がするりと流れ込んできて、声もでないのに私のせいではないはずなのに謝りたくなった。

「ほんと、勘弁して」

next
20160711

- 29 / 34 -
▼back / top / bkm / ▲next

ALICE+