▼未来の配偶者
ギャングでもイタリアンマフィアでも、香港マフィアでもない。
平和な日本でのほほんとしたただの極道の端くれ。
お嬢、だなんて、呼ばれたいわけではないのにと仕事から帰宅してため息がこぼれる。
先日職場にきた書類の中で見かけた暴力団とは関わりありませんか?という文字列には、無言で社長にうなづいておいたが、うちは別に暴力団ではないし問題ない。
それが、一般的に同じに感じられていたとしても、だが。
「来客?珍しい」
「なんでもヨーロッパの方の人間らしいですよ。うちの男どもと違ってスラーっとしてるスーツの。まあ、顔はちょっとこぎれいな日本人でしたけど」
「へえ。なんの関係だろう。町内会のお祭りの区割りの話はもう終わったし、それじゃないよね。いいなーお父さん海外旅行でも行くのかな」
いいな、いいなと繰り返しながら綺麗に整えられていた布団に寝転がっていれば、世話役のアイダが私のスーツのジャケットを手早く手入れしていく。
平和な極道、と最初に述べたが、うちは男衆と行っても数人しかいない。
父は、ただの地主の様なものだし、母さんは、お料理教室をひらく程度の普通の主婦だ。曾祖父の時代から続くから広く極道と名がついているだけで、ドラマや漫画によくある裏でどうのこうのは一切ない。
現にうちの男衆は、ほとんどが顔がちょっとばかしいかついだけの庭師と土方の人間で、お父さんがうち所属ってことにするかと声をかけただけだ。
私がお嬢なんて呼ばれるのも本当に家の中でだけ。
「奈緒挨拶しなさい。じいちゃんの時代からの昔馴染みのマツノさんだ。これからとても世話になる」
気品を守った和室の中で、恰幅のいい5,60代の男性と細身の黒い高そうなスーツに不釣り合いな桃色のネクタイをした男が座布団の上で少し足を崩して座っている。
なんで呼ばれたか、先ほどまで旅行だのなんだのと思っていた私をぐわんぐわんと揺さぶって現実を理解させたい。
「Ciao, la mia sposa」
にっこりと笑うそれの言葉に、ひくりと唇がひきつった。
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20160726
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