▼空っぽな自意識

自意識ライジングだから!と、兄さんたちが往来で大声をあげるので、頭を持ち上げてそれを見上げた。
ぎらっぎらに光りうねるその見た目は、まるで兄さんの中をぼろりと露呈させている様でなんとなくわかりやすいなと思った。
さて、私の自意識は、と言われれば、手元にあるものの半透明で中身のないスカスカな状態プラスチック製の安っぽいボールにも見える。
なんとなくその理由のわかっている私は、ふんと鼻を鳴らすほかない。
まだ、私は此処になじめているだなんて根本的に思っておらず、やはりどこか薄れてきた何歳だったかの自分の記憶が宙を浮いて空気の様に薄まっているのだろう。

「おかえりチョロ松兄さん」

「ご迷惑おかけしました」

土下座しそうな勢いの三男は、私に向って私の就活に使った鞄を丁寧に乾拭きまでしたのだろう、すっと差し出してくる。
男女兼用だからと買ったそれは、就職してから私服通勤の為使用されることがなかったのだが、ついこの間自意識の壁をぶち抜いてしまったこの兄によって中身に何も入っていないすっからかんのまま小道具として日の目を見たところである。

「奈緒みたいになりたいのに、どうして僕はなれないんだろう」

「あんまり考えないほうがいいと思うけど。こないだもそれのせいでああなったんだし」

「うん…まあ…」

そうだね。とちゃぶ台の上に乗せた少し時期の過ぎてしまっている求人情報誌に頭をもたれかからせるチョロ松兄さんは、いつも下がっている眉毛をさら困らせる。
兄が妹のようになりたいとは、言葉では不思議なものだが、簡単にいえば就職して自立したいという事なのだろう。
この兄は、そもそも行動のほとんどが口だけの男なのできっと無理だと思う。決して口には出さないが。

「まあ、がんばって」

「…そうするよ」

そうやってうわべだけのがんばれを送りながら、ぽかぽかと心地よい空気に、私はちょっと眠ろうとソファの上で目を閉じた。

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20160530

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