あまくてふんわり


こっちの酒は、甘くて体にじくりと染み込む。

「どう?美味しい?」

うん、うんと頷きながら箸を鍋に向ける名前ちゃんは缶の何杯目かわからない酒を飲み干す。
口にあったのだろう鍋を嬉しそうに食べていく彼女を見ていると、作った甲斐があったと思う。
自分の前にある桃色のラベルの貼り付けられた缶を開けて、一口。
喉を潤すように流し込むと、果汁とはまた違う甘さが口に広がる。
酒?というにはまた甘ったるい。
しかし、どこか二口目を誘う味に手は繰り返し喉を濡らそうと缶を運んだ。
酔っているのだろう名前ちゃんは、顔に赤みが出てくるわけでもなく若干声が大きくなる程度で変化は薄い。

「あー、満足。ごちそうさま」

「お粗末様」

簡単に机の上を片付けて、座り込んだままの名前ちゃんはテレビに目線を向ける。
いつもより笑いの沸点が低いのかけらけらと声を上げるあたり、やはり酔っている。
無意識に唇を舌で舐めると自分の唇が少し甘くなっていた。
酔いがまわると単純なモノで、少しばかり気が大きくなる。
動きやすい薄い布の衣類に纏われた彼女を見る自分の目が、何かを狙うように細まったのがわかり咄嗟に頭を振った。
今、どういう目で見た?
まさか自分も酔っているのかと自問自答する。
忍がたかだか一杯の酒に酔うなど有り得ない。
有り得ないが、この浮つく気持ちの高揚感は何なのだろう。
体が熱を求めるような感覚。

「佐助さーん。ちょっと酔ったっぽい動けない。お水ー」

不意にへらへらと眉を垂らして笑いながら名前ちゃんが、手招きする。
気を取り直して、ミネラルウォーターを注ぎ入れたグラスを差し出しつつ隣に座り込んだ。

「名前ちゃん、弱いならなんでそんなに呑むわけ?」

「うあ、ごめなさい、家だから余計…あぁ…」

「気持ち悪いとかは?」

「まったく。足腰に力入らないだけ。久しぶりのお鍋でテンション上がっちゃったかな。佐助さんあのお鍋美味しい、作り方教えて」

グラスを受け取ったまま飲もうとしない名前ちゃんに、朝になったらねと諭しちらりと様子をうかがう。
本当に動けないのか、机に体をもたげたまま力なく笑い続ける名前ちゃん。
手には、今日怪我でもしたのか小さく絆創膏が貼られていて女の子なのにと頭が悪態をついた。

「歩けないんでしょ?ベッド乗せるだけ」気分の高揚感はまだ晴れず、名前ちゃんを抱き上げて立ち上がる。
俺の言い分には、這うなどといいつつしがみついてくる腕に力はなく。やはり女の子なのだと思わせられた。
町娘よりも筋力がある分、少ししっかりとした体は予想していたよりも幾分か軽い。
筋肉質独特の固さもなく、女性特有の柔らかさを持つ彼女に少し抱き上げた事を後悔する。
彼女から香る酒の甘い匂いとシャンプーと、少しの木のにおい。
放したくないと思いつつ小さな梯子をのぼり、高さのあるベッドの上に彼女を降ろした。

「…名前ちゃん本当に危機感薄いよね?」

こんな風に見知らぬ男を家に住まわせて

「あるよ…馬鹿にしないで」

「でも俺様が男だって事忘れてるでしょ」

「佐助さんは、私に手なんか出さないよ」

「今出すかもじゃん」

「酔っ払いで動けない私に?無い、佐助さんはしないー」

男がどんな事を考えているかとか、君が今何をされたとしても抵抗できない立場にあるだとか
考えられるのに、どこかで相手を信用しきってしまう。

「甘い、なぁ」

そう呟いて合わせた唇は、ふわりと柔らかくやっぱり甘かった。

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20121115

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