雰囲気に呑まれる


こんな事なら酒など買わなければよかった。などと、今となっては無意味だ。
そう、今更遅い。
意識、正常。足取り、最悪。

「名前ちゃん、弱いならなんでそんなに呑むわけ?」

呆れ声を佐助さんから聞き水の入ったグラスを受け取りながら、ごめなさいと返す。
否、私自身専門学校に進学して社会人になり酒を嗜むようになってから確実に普通の人より強い自信があった。
何せ周りは、飲み慣れたおっさんと回数の多い打ち上げ。
そんな中ジョッキで酎ハイ。八杯ぐらいなら意識正常で七駅ぐらいなら1人で余裕で移動できる自信がある。
だが、どうにもこうにも量で酔うわけで無く雰囲気に酔うのが私だ。

「家だから余計…あぁ…」

「気持ち悪いとかは?」

「まったく。足腰に力入らないだけ」

いろいろな酔い方の人がいるだろうが、私の場合どうも自分のパーソナルスペースである家に帰ると意識がくるりとまわる。
一番ひどかったのでも楽しく飲み明かし家に帰った瞬間から記憶が無い時で、しかし鍵もきちんと閉めてベッドで(頭と脚が逆だったが)寝ていた。
起きてトイレの前に綺麗にスニーカーが並んでいた時、自分は本当に何がしたかったのかと疑問に思ったが、人様に迷惑をかけた事は無い。
二日酔いにだってなった事は無い、いつも朝は爽快に目が覚める。

「久しぶりのお鍋でテンション上がっちゃったかな。佐助さんあのお鍋美味しい、作り方教えて」

「朝になったらねー」

頷けば不意をつくようにいともたやすく佐助さんが私を抱き上げる。
ぎょっとする反面あまりのことに声がでず、ただ彼に目線を向けた。

「歩けないんでしょ?ベッド乗せるだけ」

「…は、這っていける」

「まあまあ」

任せなさいとばかりにポンとベッドに乗せられ自然と目はうつろになる。
昔の彼氏に冗談で抱き上げられた時とは違うはっきりとした安定感。包容力。
くらありと緩く睡魔がまとわりつく。

「…名前ちゃん本当に危機感薄いよね?」

「あるよ…馬鹿にしないで」

「でも俺様が男だって事忘れてるでしょ」

「佐助さんは、私に手なんか出さないよ」

「今出すかもじゃん」

「酔っ払いで動けない私に?無い、佐助さんはしないー」

空気が変わるのがわかる。
これは、たまにある酔っ払いの私に向けた上司から醸し出される相手しろの空気に似て妖艶。
いつもならば酔っ払ったのをいい事に、じゃ!と空気を読まずに立ち去れたりしたがどうも出来ない。
家なのだから逃げ場は無い。
佐助さんは、アルコールを呑んだのだろうか?
自分が呑むのが楽しくて気づかなかったが、きっと呑んだのだろう。
でなければ、シラフでこんな空気になるわけがない。

「甘い、なぁ…」

佐助さんの整った顔が楽しげに笑う。

嗚呼、こいつ
絶対酔ってる。


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20121102

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