便利ないいわけ
私の目が白黒と瞬く。
当然のように夕飯の買い出しを終えて帰宅してみたものの、意識としてはいつの間にか家についていたが正しい。
佐助さんが冷蔵庫から麦茶を取り出しながら名前ちゃんもいる?とグラス二つを目の前に並べる。
ぺたりと座布団に座り込み、グラスに注がれた麦茶を一口喉に流し込んだ。
「どうなってるんですか、それ」
ようやっと声になったその呟きに佐助さんが唇をグラスにつけたまま首を傾げる。
それ、とまだ焦げ茶色を維持したままの彼の頭を指差せば嗚呼とグラスが二つテーブルに並んだ。
「ほら、俺様忍だから」
忍だから、だからなんなのか。
忍なら頭の色をころころ変えられても当たり前なのかと問えば、そばに置いていた布巾を広げて顔を隠してまた表す。
一瞬でまた頭が見慣れた赤毛に変われば、繰り返してまた焦げ茶色へと変化する。
それはさながら、職場である劇場で海外のアーティストを呼んでの公演で見た中国の変面に似ていた。
手や袖を翳しただけでくるくると顔の面が変わり、客席から見えない袖からじっと見つめても仕組みなどわからない。
門外不出の伝統技術であるそれ、それをステージで行ったのは僅か七つの女の子だった。
「変装とは違うの?」
「変装っていうより変化、だね」
否が応でも納得せざるを得ない忍だからにしぶしぶ納得しつつ、買ってきた衣類は一通り佐助が着て帰ってきたし着て行った私の服は洗濯機に放り込んで先ほどスイッチをオンにしたばかりだ。
いつ頃母がこちらに顔を出すかなどわからず、落ち着き払った佐助さんとは真逆に小さな物音すら逃がさないぐらいの強い意志を持った私はピリピリとしている。
「…あ、誰か来たよ」
ふと、佐助さんが呟いた瞬間。
ピンポーンと高らかで間抜けな音が部屋に響いた。
もうちょっといいマンションに入っていたならば、エントランスのオートロックを開く時にワンクッション挟めるところを我が家はそんな設備はない。
宅急便も、勧誘も、全部が直接こちらに突撃をかましてくるのだ。
「ひ、久しぶり」
ひきつった笑みと冒頭から噛むという焦りを見せた私に、にっこり笑顔で抱えた米の袋を差し出す母は、何も言わずに中を覗き込んだ。
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20121118
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