母よ、これが現実だ
蚊帳の外、という経験をした事が無いわけではない。
三人で会話をしていれば、自然と二人にしかわからない会話をされて仕方なしに無言になってタイミングを見計らうなんて事よくあるだろう。
しかし、当人同士が初対面である場合はどうにも蚊帳の外にされる理由が見当たらず不満である。
「佐助くんたらお料理も上手なのね」
「いえいえ、僕なんかまだまだですよ」
「謙遜しちゃって!この煮物なんか作り方教えてほしいぐらい」
にこにこ笑う二人を怪訝そうに見つめるのは私しかいない。
佐助さんの今日の夕飯用に作られた里芋の煮物は、母とは違って少し味は甘いがそれもまた美味しい。
それをべたべたとほめたたえては、チラリと目線をこちらに向ける母は私と彼がどこまで関係を進めているのかが知りたいのだろう。
もう50になるのだから、子供のようにわくわくするのはやめてほしい。
「…で、佐助くん今学生さん?」
「違います」
「あら、じゃあどこかにお勤め?」
聞くだろうな。とは思っていた。
言葉に出さず、困ったように首を振る佐助さんを見て母は目を見開き私に目線を向けた。
今時、フリーターでも夜はどこで働いていますなど言えるはずが佐助さんにはそれすらもない。
力強くぐっと手を引かれ玄関に歩みを進めれば、先ほどまでとは違う低く小さな声が耳に届いた。
「佐助くんの性格とかもろもろがいいのは十分わかった。でもね、母さん仕事も勉強もしてない人と暮らすっていうのはちょっと…」
「だって佐助さん働けないんだもん」
「どこか…体が悪いの?」
ううん、と首を振れば皺の寄った不審そうな自分と似た顔が浮かび上がる。
最初から母には話す気でいたがこのままでいたら私は変な輩に食い扶持にされている可哀相な娘になるのだろうなと、冗談にしか聞こえないそれに思わず口元が緩んだ。
「佐助さん戦国時代の人だから、戸籍も無いし」
「は…?」
「ましてや、まだこっちにきて一週間ちょいじゃ私から離れて常識がわからない言い訳できないでしょ」
「ちょっと、ちょっと待ちなさい」
あわてる母は、ひょこりと顔を出してこちらの様子を伺う佐助さんと私を見比べる。
愛想笑いをお互いが浮かべ、私を再度見る時の母の眉間にはしっかりくっきりと皺が刻まれていた。
「信じられないかもしれないけど、事実だから」
おそらく聞こえているだろう佐助さんを指差せば、母に向けて髪色をぱっと変えて見せる。
その佐助さんが浮かべる笑みが、驚く程似非くさいなどと思えるのは私も大概彼を見慣れたせいもあるのだろう。
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20121119
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