突拍子もない、口説き文句


にこやかに帰っていった母を見送り、ホッと一息と佐助さんが淹れてくれたミルクティを飲み干す。
私の説明と佐助さんの実演により最初はおかしなものでもの見るような視線だった母も、本当なのね…なんていう区切りをつけた。
彼氏彼女の関係ではなく、ただ彼を善意で保護しているだけなのだとわかれば知ってしまったからには少しでも困ったことができたら連絡してきなさいと言ってくれる母には感謝したい。
これも親子間が良好である証拠だろう。
帰り際に、佐助さんに向けて娘をよろしくおねがいします、と頭を下げるのはどうも嫁がせるそれに見えたが佐助さんも佐助さんでこちらこそなどと頭を下げた。
こそばゆい空気から今、ほっこりと漂う空気に私は口内の甘さに酔う。

「名前ちゃんてばお母さん似だね。笑い方いっしょ」

「見た目はね。でも母さんは絵とか芝居とかよくわかってないし、思考は父さん譲り」

「ふうん」

なんの気もない、なんともゆったりとした空気の中温めなおされた煮物を含めた晩御飯がテーブルに並ぶ。
座布団に座りなおして、いただきますと手を合わせて口に里芋を放り込めばほくりと割れて出汁の香りが鼻をついた。
明日も朝から仕事だからと言えば、了解と最近の目覚まし時計かわりを務めてくれる佐助さんが小さく返事を返す。

「あのさ、」

「ん?」

「なんで昨日キスしたの?」

きす?と首を傾げる佐助さんに唇を箸で示せばくしゃりと表情がゆがんだ。
別段、詳細について問いただしたいというわけではない。
ただ、この無言の空気に耐えきれなかった私は共通の話題としてそれを出してきたにすぎない。

「俺様こっちきて大分丸くなったと思うんだよね」

「性格が?」

「性格含め、考え方とか」

いろいろだよ、と消え入りそうな声で続ける佐助さんは一口分含んだ白米をごくりと喉を鳴らして飲み込む。

「こうやって座って、白米食べて、誰かから隠れたりすることもなくて、多分名前ちゃんの空気に惑わされちゃってるんだと思う」

「人聞き悪い」

「いい意味で。でさ、こう気持ちが豊かになると抑え込んでたものがでてきちゃってたみたい」

そう聞かされるとふいに人間の三大欲求といわれるものが浮かぶ。
食欲、物欲。性欲。
人間はこのうち二つさえ満足であれば一つは我慢できるとどこかで聞いたことがある。
佐助さんに表立って物欲があるようには到底見えず、あれは性欲の表れだったかと呆れにも似たふうんという力のない声が漏れた。
それを理解してか知らずか、歪んだ表情のままさらに笑みを深くして軽く首をかしげて見せる。

「俺様ってば、名前ちゃんのお母さんに娘をよろしくって言われて。なんかお嫁にもらうみたいだって思っちゃったんだよねえ」

そう言う佐助さんは、私からは見えない私の顔を指さして真っ赤だよ?なんてけらけらと笑うのだ。

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20121121

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