平穏と喧騒へのカウントダウン
ああ、見たことあるわ。というのが私の素直な感想である。
あと少ししたらさようならしてしまう業界であったが、こういう慣れに関しては少し有難い。
「いいね!すごくいい!」
わざとらしいほどに嬉しげな声で発せられる感情の言葉に、乗って、色を変えるモデルさんたちを見ながらすみっこに置かれていたパイプ椅子に腰を下ろす。
ああ、あの人はこないだ歌手とスクープされた人だ。とか、そんなまるで紙面を見ているかのような感情は、本当に冷め切っている。
ゲイノウジンであるプレミア感なんて私にとっては皆無に等しい。
「うん!似合う!ちょっと撮ってみようよ!ね!」
「えへへーだって名前ちゃん。似合う?似合う?」
「似合うと思うよね名字さん!」
「あ、はい。似合いますねえ」
社交辞令というか少しわざと引き気味で返した返答にすら嬉しそうな阿藤さんの反応は、私が今まで描いていたきっちりパーフェクトカリスママネージャーというよりも、佐助さんを自分のものにしたいとにじみ出すぎてる若干オネエ臭漂うおじさんになってしまった。
佐助さんは佐助さんで、わかっていて返事をしているのだろう。
私と買い物をした時の佐助さんがそこに居て、ひそかに忍者怖いと思ったのはきっと私しかいない。
阿藤さん直々にひとつひとつ説明を受ける佐助さんをそのままにゆっくりと席を立つ。
少しトイレへ、そんな軽い感覚でスタジオから出て廊下から吹き抜けを見下ろして、綺麗なぴかぴかとした磨きこまれた床に目線を這わせた。
「なんか、居心地悪いな」
ぽつりとつぶやいて、思い知る。
きっと佐助さんは、私がいないこの間に事務所所属への契約書にサインなんぞしているのだろうという予測で憶測が、的中しているだろうと。
ざわつくスタジオ内の空気から読み取り、なぜかぞわりと背中に何かが這った。
「これは、ちょっとやな予感」
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20131015
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