戦国の世よ、そちらを呼ぶ声聞こえるか


今までの自分のやっていた仕事とは雲泥の差だと感じる。
外に出るときは、必ず変装してください。と、何かに気付いたように名前ちゃんが言ったのは、阿藤さんと契約を交わしたその日に撮った写真が、雑誌に掲載され発売された当日だった。
どうしてさ、と聞いたところで理由を話されたがいまいちピンとこない。
此処であれやこれやと説明できないのだから申し訳ない。
変化で姿を変え、スーパーまでくれば化粧品の一角にででんと自分の姿が其処にあった。
なんてこったと思うのが六割、俺様ってば綺麗と思ったのが三割、残り一割で確信した現代の技術の素早さ。
すごいものだと感心しかない。
こちらに来てもう三週間。
名前ちゃんが、仕事を辞めるまであと一週間となった。
たった三週間の間で仕事をもらい、次の仕事にまでつながってしまうのだから人脈とは実に恐ろしく、そして常に師走かと思わせるような日々となっていた。
スーパーからの帰り道、今日は安く買えたサワラを焼いて大根おろしもつけようか、などと思案していれば、曲がり角の向こう側から大きなリュックを背負った名前ちゃんがちょうど同じ瞬間にこちらに気付いたようであった。
がちゃがちゃと歩くたびに聞こえてくる音は、時たまくるりと首を鳴らされる度にぼきんと鳴る骨と共鳴する。

「お疲れ様」

「ん、もう。しんどいわ」

溜息も漏れているあたりいつもとは疲れ方が違うようで、あとで腰でも揉んであげようか?と提案してみれば、お願いしたいと受けとってくる。
輿入れ前の女が男に体を触らせるなんて、と真田の旦那の事を少しばかり頭に浮かべてみせてはふりきる。
あちらに帰れそうな手がかりも、予兆も、まったくもって無い袖触れぬと踊りだしてしまえそうなほど絶望的に無い。
諦めているわけではない。だが、どうしようもない。

「こないだの広告綺麗にできてたね」

「でっしょー」

まさか自分が抜擢などされると思っていなかった今話題にあがった広告。
着物で、金髪で、とまさか女装をさせられるとは思っていなかったが、金髪などすぐに浮かぶ同郷の彼女を浮かべてみる。
また、俺は無意識にあの場所を思い返す。

「明日も撮影なんだって、めんずふぁっしょんし?の」

「ほー、あ。じゃあ、私が明日晩御飯作ってますよ。明日と明後日連休だし」

「え、ほんと?」

「ホント」

やればできるのよ?なんて笑ってみせる名前ちゃんを見つつ、焼き上がりのうまくできたサワラをほぐす。
大根おろしにすだちに。
味噌汁は大根の葉と里芋。
麦茶と、テレビではトーク番組で最近の出来事をまとめて流し、よい明日をと締めくくる。

毎日白米とは、豪勢なものだ。

next
20140204

prev next

[back]


ALICE+