決意を見せよと、後ろで聞こえた


きらきらふわふわとした女の子、おしゃれで、きれいで、そんな女の子を見ながら私はちらりと自分の今の姿に目線を落とした。
今日は、私のこの業界で働く最後の日である。
いざ、最後となればさみしくなるもので、上司らからまた遊びに来いよと声をかけられては絶対嫌ですだなんて軽口をたたく。
いつでも手伝いますよ、なんて言わない。
私は、あんな普通の女の子に戻るのだ。
塗料と接着剤と木くずで汚れたジーパンと黒く真新しいスタッフTシャツは、今日はあまり汚したくない。
帰りはモデルとして歩いた佐助さんと帰るのだから、少しでも綺麗しておかないと、きっと私は浮いてしまうのだろう。
片手で軽く、ガチ袋を撫でた。
破れかけたそれと中に入ったままのテープ粕を指で一つづつ取り出して近くのゴミ箱に捨てる。
釘が、数本折れ曲がったままでてきたが、使う事ももうないだろう。

「お疲れ様、名前ちゃん」

作業を終え、人気の少ない片隅のモニター前でがやがやと客の動きしか見えないステージを見た。
会場内のざわつきにまじって聞こえてきた声に顔を持ち上げてみれば、佐助さんがメイクを終えたばかりだろう、髪を左に流してにっこりとパックのジュースを差し出してくる。
どうして此処にと聞く前に、佐助さんは俺様ってばできた忍だからなんてまた笑う。

「気配が読めなくて戦場なんてでていけないもんよ?特に、いろんな気配の中で身内の事探せないんじゃ、駄目。デショ?」

「そっか、佐助さん忍者でしたねえ」

ジュースを受け取りながらまたモニターに顔を向けてみればシュッとモニターが真っ黒に染まり歓声が上がる。
始まる、ならば佐助さん戻らなければいけないだろう。
そう思っていればもう一度、佐助さんの声が私を呼んだ。

「この仕事が終わったら、聞いてほしい事がある」

「…?佐助さん?」

「俺様のけじめ。ちゃんと此処で生きてく為の」

その時の佐助さんは、普段のなんでも飄々とこなし裾のつかみきれない表情ではなかった。
眉間にゆるく皺を寄せ、少し震える声の端。

「今は、精一杯名字佐助として働いてくるね」

佐助さんはそう言って、ぶわりと黒い靄に包まれた。


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20140405

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