ラスト・ダンシング


様々な事務所からのモデルがランウェイを闊歩し、渾身の笑顔で愛想を振りまく。
頭身が高く、細身である事はそこでは当たり前で、その中で見劣りする事のない佐助さんは、こなれた様に片目を軽く閉じて笑みを浮かべる。
正直、管理用モニターから舞台上の人物の細かい表情など把握できるわけもなく、おそらくはそうなのだろうという憶測でしかない。
管理事務所の中で椅子にもたれ掛ったまま画面を見ていれば、きっかけの終わった上司が一人帰り支度を始めた。

いつもと変わらない。お疲れ様でした。をかければ、また遊びにこいよだなんて笑いかけてくるのだから困ってしまう。

もう、此処にこうして来ることもなく、会う事も無いだろう。

「お疲れ、さまでした」

お前もな、そんな声を最後にぽつんと事務所にひとりぼっちになる。
もうすぐステージは最終締めくくりに入る。
大音量の音楽と紙ふぶき、テープを飛ばし照明はきらびやかにモデルたちを彩り、その一つの動きすら逃さぬようにカメラのレンズはその先へ動き、袖までかえってきたモデルにお疲れ様とスタッフが
声をかけるだろう。
裏は、私たちにとって勝負の場所であった。
最後に大きな仕事ができてよかったじゃないかと思う反面、いつもの劇場で、いつものメンバーに囲まれて終わってもよかったと思う。
また次の日出勤してくる事を考えてしまうような退職も、それはそれで贅沢な悩みなのかもしれない。

「はい…終わり」

ぐしゃぐしゃとガチ袋の中身を捨てていく。
なぐりと、バールと、ペンチにスケールはまだ使えるかもしれないが、他のものはガチ袋ごと大きなゴミ箱に突っ込んだ。
清々しい終わり方にしようと最初から決めていたが、貧乏性故かほとんどのモノが捨てられない。
少しだけ軽くなったリュックを背負い、味気ない裏口を出ようとすれば出待ちなのだろう女の子が複数外に居て思わず出ていくのを戸惑う。

「あ、いたいた名前ちゃん」

ぱたぱた、と。
仕事で使った服を格安で譲ってもらっている佐助さんは、着こなされた洋服で私の元へとかけてくる。
あ、お疲れ様でした。と言えば、へらへらと開演前の真剣な表情とは違ったゆるい顔が其処にあって、思わずほっと息を吐いた。

「どうしたの?」

「いやあ、外。どうしようかなーって」

「外、ああ。人気者いっぱいだから多いんだ」

「今出ていくスタッフ少ないですし、佐助さんもいますし、」

ううん、一唸りすれば隣でずぷりと鈍く沈む音と、何かが私の腕をぎゅっとつかんだ。

「ちゃあんとつかまっててくれるなら俺様にまかせてくんない?」

まとわりつく黒い靄の中で、引き込まれた佐助さんの胸に顔を押し付けられ、これは抱きしめられていると表現すべきだろうか、地中へと沈む体に違和感を感じながら私はぎゅっと目を閉じ佐助さんに身を任せた。


next
20140405

prev next

[back]


ALICE+