仮面をとって泣けばいい
甘ったるい空気になるのは、確か二回目だ。
黒いもやもやの中をだいたい五分ぐらいだろうか、もしかしたら一分もたっていないのかもしれないが、予想以上にがっしりとしていた佐助さんにしがみついて過ごした長くて短い時間。
ついたよ。と頭上から聞こえてきた優しい声色にゆっくりと顔を持ち上げてみれば、見慣れた我が家、ハテナ?と思うもののこれは忍者だからなのかと無理やりに納得してゆっくりと佐助さんから離れようと力を抜いた。
離れようと、というのは結局は、離れなかった時の表現であるのだが、私はまだ片手首を佐助さんに掴まれたままである。
どうかしましたか?と声をかける間もなく、またぐいと胸元に押し付け抱きしめられる。
ぽんと、おそらくは座り込んだのだろう。
佐助さん用の畳まれた布団上であろう場所に体が下がった。
「名前ちゃん、俺様の話聞いてくれる?そのまま、俺様の顔見ないで、そのまんま」
声は出せない。
くぐもったうう、という空気のみが漏れ数回頷くことで返答すれば、少しだけ佐助さんの手から力がゆるんだ気がした。
とりあえず、お疲れ様でしたという労わりの言葉のあとひゅんと佐助さんが大きく息を吸い込んだのがわかる。
「…こっちで、暮らしていこうと思う」
吸い込んだ空気を還元するように、決意のこもった空気が吐き出された。
「武田の事も、いろいろあるけど。仕事もできたし新しい友人って言えるようなのもできてきたし。それで、こっちで一生を終えてもいいって思う様になってきた」
正直、佐助さんから感情の起伏というものを感じた事はない。
笑みのみをはりつけたように、愛想というものを纏って、いつか私を殺してでもここから消えてしまうのだろうななんて事も予感していた。
佐助さんは、私に気を許してくれていないと思っていたしそれはきっと仕方のない事で戦国時代を生き抜いてきた佐助さんにとって、私は甘い人間で弱いめんどくさい人間であっただろうと思っていた。
「これからは、名前ちゃんを支えていけたらいいなって、思ってる」
続いた言葉に思わず力いっぱい顔を上げる。
見ないでって言ったのに、なんて涙声で言う佐助さんの顔は、ぐずぐずに歪んで唇は震えていた。
「捨てたくないなら、捨てないでいいですよ」
「そんな甘くないんだよ」
「泣いてますね、佐助さん」
「うん、何年振りかに泣いてる」
「どうぞ、もっと泣いていいですよ」
「ありがとう、借りる」
借りると言ったくせに、私の頭上に顔を埋めてぐずっと小さくひくつくのみの佐助さんは、ぽつんと事務所で一人ぼっちになった私と同じように見えた。
唐突になにもできることがなくなり、かといって新しい場所で居場所ができたことできっと昔の場所を裏切ったと感じてします勝手な疑心暗鬼。
それはその人の事をとても弱く見せ、それはとても、その人の事を守ってあげたいと思わせ、一層その人の事を愛しく見せた。
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20140405
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