今月のマスコットボーイ


いってらっしゃい。など、初めて言われて心から帰りを楽しみにしたかもしれない。
スタジオにつけば、ようやっと見慣れた面々に囲まれ化粧と衣類の着替えに入る。
季節季節は目まぐるしく、もう秋の装いに身をつつむらしい。
長い袖の安心感と言えば、肌を出すのは元々あまり心もとない故に心の蔵からほっとした。
気分は、自然と上向きである。

「どうしたの佐助くん。なんだか今日はいい表情ね」

なんて、自分と同年代であろう恰幅のよい女言葉を使うメイクに声をかけられてハッとする。
表情が漏れている?なんて、緩みに一瞬気持ちは張りつめたもののすぐにあきらめたように笑んだ。
もういいのだ。笑っても、わがままを言ってお願いして、時に涙を流そうとも、俺はこちらを選んだのだから。

「そうですかね?俺ってば、仕事が順調すぎて怖いぐらいなのに」

「恋人でもできたのかなって思ったけど杞憂だった?んん、私勘はするどい方なんだけど」

「恋人?」

そうか、これは、恋仲の者ができて嬉しい感情の表れかとふと納得する。
家に帰れば名前がいる。
まだ呼び捨てには慣れないけれど歯がゆい感覚、思わず今晩の献立はなんだろうと含んで笑ってしまう。
ふと顔に浮いてしまった汗を拭きとりながらメイクが、でも恋人なんてできちゃ困るものねなんて言葉をつづけた。

「佐助くん人気でてきちゃったから、恋人なんでできたらちょっとの間干されちゃうものね」

「干される?」

「お仕事もらえなくなるって事」

「え?!なんでさ!」

思わず、ぐるりと顔をメイクの方へと向ける。
何故、恋仲ができると仕事がなくなるのか。
あの時代にいい人がいるだけで職を失うなど聞いた事がないし、あったとしても町娘が好みそうなイロコイ与太話にすぎない。
城主が世継ぎに男ができないから女を仕立て上げたなんて噂も聞いたことがあるが、実際そうだったかなど誰もわからないし、調べようとも思わない。
花街の女郎に恋人ができようが人気は落ちるどころか、その女をどうにか自分の方にと逆に客が金を落とす。
元から、恋仲の者を作らないなど、尼や僧でもあるまいし。

「多からず少なからず、恋人ができると人気は下がるモノよ。人気がモノをいう仕事なんだから、みんな恋人ができたら隠すし、公言するなら仕事が減る覚悟でのぞまきゃいけないの」

ジョーシキよ。とまるで当然の様に言われたその言葉に愕然とした。
恋仲にはなれても恋仲である事を言えぬ仕事?
まるで、本当に、町娘の与太話のソレではないか。
さあ、いってらっしゃいと朝名前に言われたのと同じその言葉に、いってきますと言えるわけもなく先程までのいい顔などどこにいったのか。
いつもの貼りつけた紛い物の表情は、来月発売の月刊誌の表紙となる。

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20140410

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