あいにく、もう他人なもんで
一人、このスキャンダルに面白いなと他人事の様に笑った者がいた。
彼女の元上司で、たった一度だけであったがサスケの歩くランウェイを組む作業に就き偶然にも彼女とサスケに恋仲をからかい遊んだ事がある。
彼女は、数週間前にこの職から身を引き、現場でも一切彼女のことは話にすら上がらない。
そんな中、音響で彼女と仲が良かっただろう妙齢の女が、雑誌片手にぽつり、と呟いたのだ。
「これ、名字さんじゃない?」
数週間前まで共に仕事に励んだ者ではあったが、幾人もの人と交流を持つ仕事故に数人は”名字”という名前にピンときている様子はなく首をかしげる。
ようやっとああ、あの子か。となれば興味は皆その雑誌のモノクロページに目線を運ばせた。
そうか?と疑問視する者もいれば、手元に握られていた携帯などからそうかも?と記事を熟読する者まで現れる。
彼は、見なくとも知っていた。
それは、間違いなく彼女であって、そしてその記事に嘘偽りがあるとすれば、お相手は一般人の女性。の部分だろうか。
元、業界関係者の方がしっくりとくる。
「サスケって最近でてきたモデルだろ?嫁がショックうけてたのは知ってるけど、それがなんで名字?つながりなくないか?」
「デビューしたときの広告を名字ちゃんに見せたときは無反応だったし、んー?これ名字ちゃん?別人じゃないの?」
「名字にそんなつながりあるんならモデル紹介してもらったらよかったわー!誰か連絡先知らねえの?!俺、この事務所ならほぼ好みしかいない!」
「メールしたんですけど、返事無いんですよねー、あんな返信マメな子が数日メール放置とか考えられないし」
「おーい、開場ベル鳴ったからそろそろ音響帰れよー」
ゆっくりと聞き耳を立てて携帯を触る。
既読。の文字のつかないそれを見て、彼は今は自分の持ち場に帰った音響の女の子の言葉を思い出していた。
あんな返信マメな子が。まさに、その通り。
ほうれんそう。とはよく言ったもので、連絡だけは怠らない部下であった彼女から返事すらないのは不思議でしかない。
男しかいなくなった道具倉庫の中でぽかりと煙草をふかした舞台監督が、暗転した舞台袖のフットライトの明かりを見ながら小さく呟いた。
「わかってても付き合っちまうもんかねえ」
皆、わかっていないなと彼は笑う。
あいつは、このモデルがデビューしたといわれる広告の写真が公表される前にすでに親密な関係になっていたのだと。
まるで、最近付き合い始めたとでも言いたげな記事とまわりの評価は実に笑えるし、それをスキャンダル記事によって簡単に植えつけられている周囲は実に滑稽で笑える。
メッセージアプリに表示した彼女へのうすっぺらいメッセージを再度眺めてにんまりと口端が上がった。
大丈夫か?大変なことになってるみたいだが、何かあれば連絡して来いよ
今どんな状況か知る由もないが、当事者でない彼は、まるでドラマを見る視聴者の様に展開を期待する。
(大丈夫か?大変)面白そう(なことになってるみたいだが、何か)俺を楽しませてくれそうな事が(あれば連絡して来いよ)
いくら元部下でも、他人事。
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20141215
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