母にしかわからぬ、母の勘
母さんが、唐突に鳴り響いた携帯に大慌てで答えたのは、運よく自分の仕事が休みでのんびりと家でくつろいでいた時になる。
名前という姉の名前が聞こえてきたことに思わずソファにもたげていた体をおこしてみれば、母さんは「そう」という単語を繰り返すのみであった。
姉は、とても臆病なくせに人に頼る事を苦手とした典型的な長女気質である。
世話焼きなくせに自分の事にはとんと興味がなく、高校の時に着ていた服がまだ問題なく着れているのだから物持ちもよい。
そんな姉が高校を卒業して一人暮らしをするとなった時、餓死するんじゃないかと冗談交じりで思ったのは、心の底のみでの感想に他ならない。
そんな姉には、母さんしか会ったことのない彼氏がいる。
母さんは、サスケクンは、彼氏じゃなかったの。と同棲してる!と騒いで様子を見に行った次の日に言っていたが、父さんと自分の中ではまだ見ぬサスケクンは、堂々と姉の彼氏の位置に鎮座していた。
ちょうどそれもなじんできた頃合、職場の女性陣がもっていたファッション誌に写った男。
その男がそのサスケクンだと知ったのは、姉と自分の共通の幼馴染からこの後姿は、名前ちゃんではないか?と週刊誌のモノクロページを自分にわざわざ見せに来た事で発覚した。
後ろ姿だろうが、なんだろうが、身内や友人にとっては少しの情報でその人を特定できてしまう。
その写真で自分の姉であると確信するのは至極簡単なことだった。
「…姉ちゃん、なんだって?」
携帯をゆっくりときった母さんに声をかけてみれば、力なく帰っちゃったんだって、というつぶやきがかえってくる。
帰っちゃった。という意味は分からないが何か進展といえる事態となったのだろう。
ぽつり、続いた母さんの言葉によると、しばらくしたらこちらに帰ってくるつもりだという事までは理解できた。
「お姉ちゃんの事、助けてあげないとね」
ソファの隣に腰かけて息を吐きながら、これから大変だよ。とどこか何かを理解して、すべてを見ていたかの様に微笑む母さんは、電話から五日目にボストンバッグとキャリーバッグの大荷物を抱えた姉を、帰ってきて早々に産婦人科に連れて行ったのだから。
母というものに隠し立ても何もできないのだろうな。と思ったのだ。
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20141223
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