誘惑より家事?
この時代は本当に便利だなと感じつつ最近増えた苦笑いをこぼしながら、預かっている生活費を覗き込む。
今夜は鍋。そう宣言したからには、鍋と決めてスーパーまできたがまだぼんやりとしか材料が煮詰まらない。
こちらの生活にも随分と慣れた。
慣れるまでうちに居たらいいという名前ちゃんの言葉に半ば押し切られる形で厄介になっているが、慣れた今は正直出て行く気が無い。
毎日毎日飾り気の無い食事でも、彼女は美味しい美味しいと食べる。
それがどこか主君に似ていて、世話をやいてしまい目を離せない。
忍者食以外を作るのも、こちらの厨を使うのも初めてだったが慣れれば簡単なもので自分の万能っぷりに惚れ惚れしてしまう。
流石俺様。
さて、問題はまず今晩の鍋。
そう思い、野菜の並ぶ前でぼんやりと大根を眺める。
ううん。と一人悩んでいれば、ねえ。と鈴を転がしたような声がかけられた。
「1人?」
女だ。溢れ出る妖艶な笑み、体もよく男を誘い慣れているのがよくわかる。
場所が場所でなければ、大抵の男はホイホイとついていくだろう。
少なからず自分もこういった種類の顔は好みだ。
「今はね」
「あら、残念」
「誘ってくれんのは嬉しいけど、スーパーで男あさり?」
「違うわ。最初から貴方目当て」
いい殺し文句だな。と、誉めたくなる。
細い指が二の腕に絡もうと近づくが香が少し強いのか、自然と拒む忍としての自分が体を離した。
「…ふうん」
離れた事で、望みがなくなったと感じたのだろう。
するりと居なくなるその後ろ姿に欲の処理相手に調度よかったし少し惜しい事をしたか、と感じたがなんでもない。
すぐに興味も薄れきった。
さて、大根と白身魚と水菜。
こないだテレビで見た出汁で煮るだけの安上がりで簡単で美味い鍋。
安くすませた分酒好きだという彼女が買ってくる金額で今までと変わらぬ出費となるだろう。
節約家ですね。と聞かれたらたまには贅沢したいけどと答えよう。
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20121007
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