君は
「転勤?」
唐突だなと言わんばかりの表情を浮かべたままのなまえは、いつものようにベッドにごろりと体を転がしている。
転勤話は実際半年以上前から持ち上がっており、それがいよいよ決まったので報告したに過ぎない。
遠距離になるか、と思いなかなか言えなかったがもう三か月後には勤務開始となってしまった為ついに言葉にした。
もちろん、ついてきてほしいと言うか悩んだりもしたが、今の交友関係や仕事も疎遠になってしまう事を考えれば婚約もしていないのに…とそう簡単に連れていくわけにもいかない。
判断をなまえに任せようという、一種の逃げの決断を下した。
これで、「そうなの、じゃあさよならだね」となまえが言えばこの関係は終わる。
「いつから?」
「…二か月以内に引っ越して三か月後には勤務開始だよい」
「結構すぐだねえ」
ううんと小さく唸るものの表情のあまり変わらないなまえは、持っていたポータブルのゲーム機を枕元にぽんと放り投げた。
ベッドサイドのローテーブルの前に座り込み、乱雑に置きっぱなしになっていた鞄をあさりとするりと取り出されたのは、ちょうどスリムなペンケースぐらいだろうか。
目の前に差し出されるままに思わずローテーブルの向かいに座り込めば、なまえは当然のように、それを開く。
中に見えたのは、少し前にカタログで見かけた際にほしいと呟いた万年筆で、次いで聞こえてきたなまえの声は、楽しげに意味わかる?と問いかけてくる。
「誕生日は…こないだもらったよい」
「あげたねえ、お金ないからってケーキ作った。そんで、クリスマスでもないね」
「…これ、高いやつだよい」
「高いし品薄だね」
わけがわからないまま万年筆となまえを見比べ、これが解答なのであればどういう意味なのか、そのまま黙りこくるしかない。
「いいタイミングだからこの万年筆で婚姻届なんて書いてみない?」
ひゅっと喉から音が鳴った気がした。
(それは男の役目だろなんて)
(古臭い考えは捨ててしまいなよ)
end
20151029
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