いつでも
「なんで来るんだよ!馬鹿!帰れ!まじで!」
玄関口でぎゃーぎゃーと大声を上げるなまえを見ながらにやけてしまう表情は隠す気はさらさらない。
付き合ってまもなく三年。
俺がなまえの家に来た事があるのは両手で足りる日数でしかない。
毎週の様にうちに来てはごろごろとしているにも関わらず、来られるのは嫌というのにはしっかり理由がある。
「まじで!まじで汚いから!今修羅場だって言ったじゃん!明日イベントだって言ったじゃん!」
「終電もうねえよい」
「来るなら来るって先に言ってよ!」
「サッチたちと飲んでたらこんな時間になっちまったんだから仕方ねえだろう?」
「ニヤニヤしてんじゃねえええええ!!」
月に二、三回。もうかれこれ十年程やっているらしいその趣味は、なまえにとっては一種のストレス発散方法であり、予定が無ければ魂が抜けたような表情のままぼそりと聞こえるか聞こえないかの間際ぐらいの声でコスプレしたい。とつぶやいてしまうほどのもの。
そして、その衣装やら小物やらをほとんど自作しているせいか常に部屋は材料で溢れかえり、時たま作業部屋がほしいと目をぎらつかせるのも常である。
別に片づけられない女というやつではないと思う。
…多分。
「マルコの馬鹿。コンビニ行ってマガジンでも読んで来い」
「俺ぁ、ジャンプ派だよい」
「知ってるってんだよおお!ジャンプ以外も読んで時間つぶしてろって事!どうにかするから!マルコが座れるスペース作るから!」
「なんでだよい、なんか貸してくれたらここで読んでまってるよい」
「…!座れ!10分で片づけてやらあ!!」
「よいよい」
ガラガラと擦り硝子の引戸の中へと消えたなまえを見送り、玄関マットの上に腰を下ろす。
玄関口に並ぶのはなんともバラエティに富んだ靴の数々で、若干何かを貼りつけたテープの様な跡も見て取れるあたりコスプレに使用したのだろう。
携帯を操作しつつやはり固い玄関マットの上でうぞうぞと腰の位置を探る。
「ん、待ってやがれこのやろう」
不意に影になった目線の先に、丸い座布団と連続した巻数の漫画が差し出される。
愛蔵版として発売完結したばかりのそれを受け取り尻の下にふかりとした座布団に腰をおろし、壁に背をもたれ掛らせ少し暗くて読みづらいそれに目を通す。
すっぽりと収まるような体勢は座布団によって絶妙に居心地がよく視線を座布団におろしてみれば買ったばかりなのだろう値札のタグには赤いペンで税込525円の文字が見えた。
扉の向こうから唸る様な声と掃除機の音を聞きながら、本気で追い出さないあたりが可愛いものだとまた1ページ昔読んだ記憶のあるソレに目を通した。
(できたかい?)
(できてねえ!覗くな!開けんな!座ってろ!!)
(また随分と荒したもんだねい)
(だあってろい!!)
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20130627
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