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それからも僕はセラとの関係を順調に続ける中、以前の記憶を利用して前回以上に好成績を収めながら日々を過ごしていた。
剣術も腕も前以上に上達し、余程不利な状況でなければほぼ負けることはないと自信を持てるまでになった。

そして先日は例の謹慎処分になるきっかけとなった任務遂行日。
一階と二階に分かれて突撃することを提案した為、無理なく組織の人間全てを捕えることに成功した。
過度な殺傷も控えた為、功績だけを称えられ、ついに騎士階級特級までもを手に入れた。


「いやあ、総司の活躍ぶりは誠に凄いぞ!才能があることは分かっていたが、まさかここまで成長してくれるとはなあ!」

「良い意味で近藤さんの期待を裏切れて良かったですよ」

「ああ!これからもお前には期待をしているぞ!就学まであと少しだが、学院でもこの子を宜しく頼みたい」


近藤さんには以前食事の席を設けて貰った時、専属騎士になる為に必要な教養や上流社会の規範学ぶため、セラと一緒に学院へ就学してみないかという提案をして頂いていた。
勿論僕は二つ返事で了承したものの、学院の中でセラは何者かに刺されて死を迎える。
学院は僕にとって、何よりも忌まわしい場所でもあった。


「勿論です、お嬢様の護衛に携われることは僕にとって何よりも名誉なことなので今後とも尽力させて頂きますよ」

「ありがとうな。そう言って貰えると俺も嬉しいよ」

「ちなみに一つお伺いしたいんですけどね、その学院以外にセラの通える学校はないんでしょうか?」

「ん?どうしてだ?」

「いえ、ただいくつか候補があるのであればセラを連れて学校訪問も出来るのでおっしゃって頂きたいなと思ったんですよ」

「気にかけてくれて恩に着るぞ、総司。だがこの近辺で通える学校は学院だけだろうな。あの学院に生徒が集まるようになってからは、その他の学校が全て吸収されるか撤退してしまってな」

「そうなんですか?」

「ああ、非常に規模の大きい学校ではあるが施設の設備は勿論、教員や立地、安全面など何をとっても一流だ。その学院の中でセラの護衛を務めながら、学んで貰えたらと思う」

「わかりました。学業、職務共々精一杯努めます」


嬉しそうに微笑むセラの横でそう告げたものの、僕としては気乗りがする話ではない。
またあの惨劇が起こらないようにする為に、どうすることが最善なのかを毎日のように考えてきたけど、その答えはいまだに出せていないからだった。



その後、セラと一緒にバルコニーへと出た僕は、これからの日々を思いながら黙って星空を見上げている。
綺麗な星すら今は霞んで見えるから、それ程までに迫り来る運命に不安を抱いているようだった。


『総司?疲れちゃった?』


僕の横にいたセラはそっと僕の腕に触れると不安そうに尋ねてくる。
この子に悲しそうな顔はさせたくないから、「そんなことないよ」と言って、目の前の額にそっと口付けを落とした。


「近藤さんに感謝してたんだよ。専属騎士の候補者に選んでくれたこともそうだし、学院に通う話もさ。何の肩書きもなかった僕をここまで押し上げてくれた近藤さんには頭が上がらないかな。勿論君にもね」

『ううん、全部総司が努力を重ねてきた結果だよ。お父様もよく総司のことを褒めてるんだよ』

「それなら嬉しいけどね」

『あのね、私達のこと……お父様話したら駄目かな?』


前回、僕達の想いは周りの大人達にはだだ漏れで、色々お叱りを受けたり指摘をされたりしていたけど、今回はセラと早くに想いが通じたこともあり、いまだに知られてはいない様子だ。
ただ山南さん辺りは僕達の仲の良さを敢えて黙認しているのか、前回同様僕に近藤さんの過去の話を打ち明けてくれてはいた。


「そうだね。ただ、その話をして僕が専属騎士になることを反対されるのは少し怖いかな。何より部屋が隣になるからさ、近藤さんからしたら不安だと思うんだよ」

『確かに今は大事な時期だから、話すにしてももう少し後の方がいいかもしれないよね』

「ごめんね。僕が王太子や大公子とかだったら堂々と君とお付き合いさせて下さいって言えるんだけど」

『ううん、総司が謝ることなんて何もないよ。私は総司が大好きだし肩書きとか関係ないよ、お父様だってそう思ってくれると思う。それに総司みたいな強い人中々いないんだよ、総司は私にとって一番の人だもん』


セラはそう言ってくれるけど、近藤さんは以前の時に言っていた。
もしこの子に必要な縁談話が来た時は、潔く身を引いてくれるかと。
即ち近藤さんからとって、僕は優秀な騎士であっても、優秀な花婿では決してないということだ。

勿論爵位の高いのお家柄からしたら、結婚や婚姻は今後の繁栄に繋がる大事なこと。
近藤さんの考えは最もだし、身の程をわきまえていない僕の方が問題なのだろうということは十分に分かっているつもりだ。
だけど僕はきっとどんなに君を困らせたとしても、君を諦めることは出来そうにない。
何度触れても何度想いを伝えても、僕の気持ちは満足するどころか更に君を欲してしまうのだろう。


「セラ、好きだよ」


いまだセラに過度な接触を求めていない僕は、今夜も人目を盗んでそっと触れるだけの口付けを落とす。
それがとても幸せで堪らないのに、もっと触れたいと思う想いもなくなってはくれなかった。

でも目の前のセラは今も純粋なまま、キス一つで愛らしく頬を染め潤んだ瞳で僕を見上げてくれる。
その顔が可愛い過ぎるから、結局僕もこれで満足してしまうんだけどね。


『私も好き。今日はゆっくり会えて嬉しいな。夜に総司とこうして会えるの久しぶりだね?』

「そうだね。最近はお互い忙しかったし、中々時間も合わなかったからね」

『うん……。ずっと会えてなかったから、総司に忘れられちゃうかもしれないってちょっと心配だった』

「僕がセラを忘れると思うの?今だってこんなに君のことばかり考えてるのにね」

『会ってると大丈夫って思えるんだけど、会えない日が続くとたまに心配になっちゃうみたい。私、総司を好き過ぎるのかな。もう少し総司のこと好きじゃなくなりたいな……』


相変わらず愛らしいことをこぼすセラは、僕の腕に擦り寄りながら鈴を転がしたような声でそんなことを言ってくる。
会えない日が続くと不安になるのは僕も同じだから、彼女が同じようなことを考えていることに思わず口元に笑みが溢れた。


「僕のこと好きじゃなくなりたいなんて酷いこと言わないでくれる?君に嫌われたら何を目標に強くなればいいのか分からなくなるよ」

『嫌うなんて言ってないよ、ここまで好きになりたくなかったって言ってるだけだよ』

「どうしてさ、僕からしたらもっと好きになって欲しいくらいなんだけどね」

『だめだよ。これ以上好きになったら、私、多分嫌な子になりそう……』

「嫌な子って?」

『総司と同じ学院に通えるのは凄い嬉しいよ。嬉しいんだけど、学院に行ったら沢山私以外の女の子もいるから……いつか総司が他の女の子を好きになったらどうしようって思うとモヤモヤするっていうか……』

「はは、セラは僕と会えない間にそんなこと考えてたの?」

『だって総司が他の子と仲良くしてたら、私絶対やきもちとか焼いちゃいそう。そんな風になりたくないから、他の子とあんまり仲良くしないでね……?』


セラは顔は見せずに、僕をの腕を掴んで小さな声でそう言った。
俯いた彼女の長いまつ毛が月の光の下で不安そうに揺れて、思わず制服を試着した時に涙を零したセラのことを思い出した。


「何馬鹿なことを言ってるんだろうね。僕は誰とも親密になるつもりもないし、セラ以外を好きになるわけないじゃない」

『総司のことは信じてるけど、理屈じゃなくてどうしても心配になる時があるの……。だって他の女の子だったらこんな風に隠れて会ったりする必要もないし、街だって手を繋いで自由に歩けるんだよ?総司は私に合わせてくれてるけど、堅苦しく感じてないのかなって……』


僕がセラの身の安全のことで頭を悩ませている間、セラ本人はそんなことで頭を悩ませていたのかと思わず笑ってしまう。
でも居もしない誰かにやきもちをやいたり、必要のない心配をしている彼女の気持ちが嬉しくて、またこの子への想いが積もっていくのを感じた。


「そんなことを心配してたなんて知らなかったよ。愛されてる気がしないならどれだけ君のことが好きなのか、いつだって言ってあげるのにね」

『そういうわけじゃないんだけど……』

「大丈夫だよ。僕はこれから先も君のことしか好きにならない、それは学院に行こうが誰と出会おうが変わらないよ。君はそう言ったところで信じてはくれないんだろうけど、僕を信じて欲しい。僕には後にも先にも君だけなんだよ」


セラは瞳を潤ませながらも頼りなさげな顔で僕を見つめ、静かに頷いてくれる。
この瞬間にも僕がどれだけ君を愛おしいと思っているかなんて、この子には伝わってないんだろうけど。


「じゃあ僕も言わせて貰うけどいい?」

『うん?』

「僕だって学院でセラが他の男と出会うのが嫌で堪らないよ。もし君が他の誰かと仲良くしてたら、冗談抜きでそいつを斬りたくなると思うし、多分僕は相当不機嫌になると思う」


隠しもせずに本音を言えば、セラは目を瞬いて僕を見上げている。


「それに、僕だけじゃなくて伊庭君と平助も護衛役っていうのも気に食わない。勿論三人で護った方が君に危害が加えられる可能性も減るしその点に関していうと賛成だけど、あの二人とセラの接点が増えるのは正直嫌だよ。僕はさ、君が他の男を視界に入れてるだけで本当に苛々して駄目なんだ」


こんなことを包み隠さず言葉にするのもどうかと思うけど、思っていたことを全部口にしたらすっきりした。
セラは少し驚いた様子だったけど、直ぐに嬉しそうに笑ってくれる。


『総司もそう思ってくれてるなら良かった……。私だけじゃなかったんだって安心する』

「当たり前じゃない。僕が何も感じてないとでも思ってたの?」

『そういうわけじゃないけど、総司はその点さっぱりしてそうだもん』

「そう思っていたとしたら僕のことまだ全然分かってないんだね」


まあ僕自身もこの子を好きになるまで、こんな風に自分がなるなんて思ってもみなかった。
恋愛事にうつつを抜かすなんて、暇人か愚か者がすることだと考えていたくらいだ。


『総司のことはちゃんと分かってるつもりだよ』

「そうだね。でももっと知ってよ、僕のこと。だから僕だけを見て、僕のことだけを考えてよ」

『うん……』


腰に伸ばした腕で引き寄せて、彼女の小さな唇に優しく自分のを重ねる。
見えない誰かにいつかこの子を渡すなんて出来そうにないから、いっそこの子の目に僕以外の人間が映らなくなればいいのにと願ってしまうくらいだ。


「セラ、好きだよ。僕は誰より君が大好きだからね」

『私も……大好き』


セラが不安を感じないでいてくれるなら、僕はいつだって何度だってこの言葉を伝えたい。
だから心配しないで、ずっと僕のそばにいて欲しいよ。
そして学院に行ってから、僕の本当の勝負が始まる。
あの日の惨劇を繰り返さないことに重きをおいて、この子を護り抜こうと考えていた。

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